2010-01-01から1年間の記事一覧

大正期の社会と社会科学(3)

ジャック・ドンズロ『家族に介入する社会』のあとがきに、ドゥルーズが「社会的なものの上昇」という短い書評を寄せています。近年の社会思想史研究で注目を集めている「社会的なもの」についての基本文献といえるこの書評のなかで、ドゥルーズは以下のよう…

大正期の社会と社会科学(2)

文芸評論家・安藤礼二は『近代論』のなかで、「『近代』というものの限界とそれを突破していく可能性を探るために、特権的といってもよい、ある一時期が存在している」と書いています*1。それは明治43年から44年というきわめて短い時間でしたが、そのなかで…

大正期の社会と社会科学(1)

twitterで「大正デモクラシーについて何か書け」というリクエストをいただいたので、論文のネタとかぶらないよう、比較的抽象度の高い話を書いていこうと思います。 近年の大正デモクラシー研究の成果については、有馬学氏によるまとめがあるのですが(「『大…

社会/「社会」/社会的なもの

『社会思想史研究』の最新号で「<社会的なもの>の概念 再考」という特集が組まれていたので、その中の何本かの論文を読みました。「社会的なもの」って最近よく耳にしますが、よくわからない。出所はよくわかりませんが、広めたのは市野川容孝『社会』でし…

「むしゃくしゃして更新した。今は公開してる」 最近はパイルバンカーのことばかり考えています。

東浩紀と「幽霊の複数性」問題―松尾隆佑「確率・亡霊・唯一者――政治学的想像力のために」を読んで

かつてアリストテレスが名指された。名「アリストテレス」は、そこからさまざまな経路を通り配達される。それゆえ名「アリストテレス」はいまや、複数の経路を通過してきた複数の名の集合体である。必然的にそこではさまざまな齟齬が生じる。・・・・・・だからこ…

大正デモクラシーのある風景

野村隈畔『文化の問題』(京文社、1922年)より。 余が或る日、上野駅から市外線の電車に乗ると、帰営をいそぐ赤羽工兵隊の一兵士が余の側に腰をかけた。彼れは頻りに時計を出して眺め、帰営時間が遅くなると見えて電車の発車するのをもとかしがり、腰が落ち付…

伊藤計劃『虐殺器官』

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)作者: 伊藤計劃出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2010/02/10メディア: 文庫購入: 75人 クリック: 954回この商品を含むブログ (517件) を見る「西洋における権力の大形式」をフーコーにならって整理すると、以下のようになる。 1…

柴村仁『プシュケの涙』

プシュケの涙 (メディアワークス文庫)作者: 柴村仁,也出版社/メーカー: アスキーメディアワークス発売日: 2010/02/25メディア: 文庫購入: 10人 クリック: 89回この商品を含むブログ (37件) を見る・この作品のどこが評価されているのか、私には全然わからな…

京都に帰ってきました。実家にも「帰る」けど、京都にも「帰る」。 実家にいる間は、犬と遊んだり、犬と散歩したり、犬の食事を世話したり、あと稀に本を読んだりしていました。うちの犬は世界一可愛いと思うのですが、おそらくみんな同じ事を考えているでし…

私信

しばらく帰省します。その間連絡がとりづらくなるかと思いますが、あしからず。

『現代思想』24(5)総特集「ろう文化」

現代思想1996年4月臨時増刊号 総特集=ろう文化出版社/メーカー: 青土社発売日: 1996/04メディア: ムック購入: 1人 クリック: 8回この商品を含むブログを見る1996年の特集ということで、いまさらの話ではあるのですが、巻頭の「ろう文化宣言」以下刺激的な内…

交換とは限定された戦争である

という一般論について。企業戦士の心得を説こうというわけではない。 他人のものが欲しい、と思ったとき、取るべき手段は3つある。 1.奪う 2.諦める 3.交渉して自分のものと交換する。 1はリスクが高い。2は得るものがない。3がベターである。しか…

『高杉さん家のおべんとう』

高杉さん家のおべんとう 1作者: 柳原望出版社/メーカー: メディアファクトリー発売日: 2010/01/23メディア: コミック購入: 31人 クリック: 536回この商品を含むブログ (149件) を見る高杉さん家のおべんとう 2 (MFコミックス)作者: 柳原望出版社/メーカー: …

『最果てのイマ』論(6)―禁忌と社会

最果てのイマ出版社/メーカー: ザウス【純米】メディア: CD-ROM購入: 4人 クリック: 172回この商品を含むブログ (42件) を見る思い出したように田中ロミオ『最果てのイマ』を読み返しているのですが(これで4度目)、いまだに「読み尽くした」という気分にはな…

私信

次回の宮地読書会は日程がずれそうです。8月7.8日になる公算が高そうすが、詳細は後日。申し訳ないです。 (追記)8月28日になりました。

『水木しげるの遠野物語』

水木しげるの遠野物語 (ビッグコミックススペシャル)作者: 水木しげる出版社/メーカー: 小学館発売日: 2010/01/29メディア: コミック購入: 8人 クリック: 182回この商品を含むブログ (44件) を見る誰もが名前を知っているのだけど、誰も読んでない本の上位10…

戦後補償の問題について

仙谷由人官房長官は7日の記者会見で、1965(昭和40)年締結の日韓基本条約で韓国政府が日本の植民地をめぐる個人補償の請求権を放棄したことについて「法律的に正当性があると言って、それだけで物事は済むのか。(日韓関係の)改善方向に向けて政治…

『Angel Beats!』についての雑感

昨日の深夜にこの作品についての議論を2時間くらいしていたので、そのとき思いついた話を少し。 ・この作品にループ世界の設定はあるのか? 想像力たくましい方々によると、Angel PlayerやNPCを作ったのは音無であると。つまり最終回で奏と分かれた音無は、…

哲学者サッカー日本代表

サッカー日本代表は残念ながらベスト16で敗退しましたが、哲学者サッカーならベスト8くらいは狙えるのでは?というわけで選んでみました。現在第3稿。元ネタは言うまでもなくモンティ・パイソンです。 http://www.youtube.com/watch?v=m-VbnN6oiXs GK:大森…

新カント主義の時代

現代社会を「理解」したり「説明」することよりも、「よい社会を提案する」規範理論のほうが、熱く語られるようになってきた。社会が複雑になりすぎて、他でもありうる可能性が増してきたからだ。適応不全でいいから、自分が本当に望んでいる世界を探したい…

『加奈〜いもうと〜』―過去を語ることについて

「今の私にとって、生きるってことは動き回ることじゃなくて、考えること。……これしかないから、藤堂加奈は誇りを持って物事を考えるの。そう……決めたんだ」 田中ロミオ(山田一)のデビュー作。いつか読もうと思っていたところに、DL版の半額セール。即座に購…

福家崇洋『戦間期日本の社会思想―超国家へのフロンティア』

戦間期日本の社会思想―「超国家」へのフロンティア作者: 福家崇洋出版社/メーカー: 人文書院発売日: 2010/03メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 57回この商品を含むブログ (5件) を見る第一次世界大戦の終結〜満州事変ごろまでを対象に、(高畠素之は例外と…

劇中劇について

たいして忙しいわけでもなかったのですが、なぜかブログを放置してました。『リトバス』論の続きが全然思いつかないからでしょう、たぶん。 先週はアニメ版『まほらば』を観返していました。これ、私が京都に住み始めたころに放送していた作品なんですけど、…

アガンベンをどう読むか―生権力・証言・メシア主義―

某所で報告した際のレジュメです。不十分な内容ではありますが、哲学・思想の専門家ではない自分にとって、現時点ではこの辺が限界(といいつつ、補足したい点は既にいくつかあったりする)。

『リトルバスターズ!』試論(1)

自分のなかで考えが完全にまとまってから書こうと思っていたのですが、それを待っているといつまで経っても書けそうにないので、見切り発車ではじめてしまうことにします。以下本文。リトルバスターズ! 初回限定版出版社/メーカー: KEY発売日: 2007/07/27メ…

『Angel Beats!』が物語の転換点を迎え、盛り上がりを見せている今日この頃。その一方、私は反時代的にも『リトルバスターズ!』を読み進めていました。昨日読み終わりましたけど、まあまあ面白かったですね、序盤がかったるかった割には。 そんなわけで『リ…

固有名詞のない物語

私にとって私の名前は、私の単独性を表すものであると同時に、他者からどのように呼ばれてきたかという、私の歴史性を表すものでもある。であるならば、固有名詞のない物語とは、歴史のない物語なのだ。 そして、スーザン・ソンタグが言うように「歴史につい…

丸山眞男についての雑感

前回に引き続き丸山眞男について。 いま丸山を語るためには、どのような困難を引き受けなくてはならないのか。岩波新書から出ている『<私>時代のデモクラシー』を読みながら、そんなことを考えた(これは非常に良い本だと思う)。M・ウェーバーの言う「脱魔…

5日ほど実家に戻っていました。今日になって京都に帰ってきたわけですが、なべて世はこともなし。『リトルバスターズ!』を少しずつ読み進めています。あと、今月はアガンベン強化月間なので、イタリア現代思想関連の本も。