大学非常勤講師の保活体験記

子供が年明けに生まれる予定なので、保育園入所のための活動、いわゆる「保活」を行いました。書類一式をそろえて提出し、いまは結果待ちというところなのですが、大学で非常勤講師(だけ)をしている人、しかも父親の保活については情報がすくないので、記録のために書き残しておきます。

 

 

・就労状況

私:非常勤講師(週2日で3コマ)+客員研究員(無給)

妻:サラリーマン(フルタイム)

要するに、受かるも落ちるも私次第というわけです。車があるので保育園の選択肢が多いというのは有利な点。

・保育園応募までにやったこと

1.市役所に相談し課題を確認(9~10月)

2.保育園に見学に行く(10月)

3.市役所との相談を踏まえて、応募に必要な書類を準備(10月)

4.提出(11月)

以上です。順を追って説明します。

 

 

1.市役所に相談し課題を確認

大学非常勤講師など、世間的にはフリーターも同然であり、客員研究員など学生も同然です(このことは自分も理解しておらず、痛い目にあいました)。そこでまずは、市役所の担当者に自分の立場を理解してもらい、どのような書類を用意すればよいのか一緒に考えてもらう必要があります。そこで正式な募集が始まる前に1回、募集開始後に1回話し合いに行きました。

この話し合いを通して、以下のハードルを越える必要があることがわかりました。

前提①:保育園に入れるかどうかは、就労時間によって決まる。長ければ長いほど有利だし、一定時間よりも短いと、選考の対象にすらならない。

前提②:非常勤講師の講義時間だけでは、就労時間としては短すぎる。これは私に限らず、めちゃくちゃたくさん教えている人でも同様。

以上の前提を踏まえて……

(1)保活の第一歩は「職場から就労証明書を発行してもらう」ことです。私の場合は非常勤先(2校)から発行してもらう必要があります。ただ、非常勤講師の就労証明書に記載される就労時間は、実際に教壇に立っている時間だけです。言い換えれば、講義のための準備をしている時間は記載されません。

1日に2コマも話をすると、それだけでクタクタになりますし、準備には膨大な時間が必要となります。しかし就労証明書には「就労時間:3時間」としか書いてもらえない。これは労働の実態に合わない、ということで、「就労証明書に関する補足文書」(学部長名義)を非常勤先に発行してもらう必要があることがわかりました。

(2)大学非常勤講師といってもやはり「研究」が本分なので、研究時間を何とか就労時間としてカウントできないかと考えました。そこで客員研究員となっている大学にお願いをして、「客員研究員であること」「平日は大学で研究に励んでいること」「保育園に入れられないと研究が続けられないこと」を証明するような文書(受入教員名義)を発行してもらう必要があることがわかりました。

 

 

2.保育園見学

7か所行きました。自分以外の男性は1回だけ見かけました。アウェー感……。

他に書くことはないのですが、噂に聞く「布おむつ推奨」園は意外と多いですね。あと、家から近くて通いやすいところばかり見学しましたが、ひとつくらいは「遠くて通いにくいけど、確実に入れそうなところ」を見ておくべきだつたかもしれません。

 

 

3.応募に必要な書類を準備

(1)就労証明書関係

就労証明書そのものは、依頼すれば必ず発行してもらえます。ただ、「就労証明書を補足する文書」はかなり苦戦しました。これは無理からぬ話で、講義時間は大学の監督下にあると言えますが(したがって大学が証明もできる)、準備時間の大半は自宅や図書館ですから、準備がどれだけ大変であるかは大学のあずかり知らぬところであり、したがって証明もできないのです。

しかし、非常勤先の先生が非常勤講師の就労環境に大変理解のある方で、渋る事務方を説得してくださいました。その結果、かなり抽象的な文言(具体的な時間には触れず、「講義以外にも準備の時間が必要であること」だけに触れる)となりましたが、就労証明書を補足する文書を発行してもらえました。この恩義は忘れません。

(2)客員研究員

こちらはスムーズでした。受け入れの先生にお願いをして書類を発行していただき、これらと「客員研究員の契約書」を準備して、何とか証明できたかなあという感じです。

 

 

ここまで用意した時点で改めて市役所に相談に行き、追加で書類の作成を指示されました。最終的に用意した書類は以下の通りです。

・就労証明書(自分で発行)

自分で自分を雇用する形で就労証明書を書きました。これは「苦肉の策」という感じで、他にぴったりくるフォーマットがなかったためです。

・就労証明書の補足文書(自分で発行)

上記の就労証明書における就労時間・就労日時などの算出根拠を記しました。この辺にどれだけ説得力を持たせられるかが合否を左右するのだろうなーと思っています。

・タイムスケジュール表(自分で発行)

講義の時間、講義準備の時間、研究の時間がそれぞれ何曜日に行われているのかを記しました。エクセルで作成。

・就労証明書(非常勤先が発行)

・就労証明書の補足文書(非常勤先が発行)

上記の通りです。非常勤先の数だけ必要になります。

・客員研究員の契約書(複写)

・客員研究員の受入に関する補足文書(受入教員のサイン)

・客員研究員としてのタイムスケジュール表(受入教員のサイン)

具体的に何曜日の何時から何時まで、どこで研究をしているのかを証明するための書類です。

これらに加えて、他の応募者とも共通する書類を作成しました。

 

 

4.提出

提出の際も市役所の担当者とあれこれ相談し、書類の最終チェックを行いました。

ひとつ誤算だったのは、客員研究員としての研究時間が長すぎるため、「労働者」というより「学生」の扱いになる可能性がある、という指摘でした。市役所から見ると、無給の客員研究員=学生であり、非常勤講師としての時間と客員研究員としての時間のどちらが長いかによって、労働者であるのか、それとも学生であるのかが決定されるということです。

そして私の住む自治体の選考では、学生は労働者よりも不利に扱われます。

これはもうどうしようもないので、とりあえず「就労証明書の補足文書」(自身で発行)のなかで、非常勤講師にとって研究は仕事なんだ!と訴えることしかできませんでした。

 

 

とりあえず以上です。私よりも先に保活を経験していた諸先輩方のアドバイスがなければ、もっと適当な書類を出していたと思います。非常勤講師の保活についてはあまり情報がないので、この記事がどなたかの役に立てば幸いです。

参考にした記事など

note.com

 

 

追記:保活しているあいだ、「これは政治だな」と思うことがたびたびでした。京極純一風に言えば「小さな政治」と言ったところでしょうか。理解者を増やし、時にゴネて、時に懇願し、ルールの隙間をぬって目的を達成する。私は結局のところ既存のルールの枠内で戦いましたが、たとえば大学当局に依頼をして、保育園の選考において学生を不利に扱わないよう圧力をかけてもらう、なんてやり方もあったでしょう。知り合いに政治家がいたらもっと手っ取り早いのかもしれません。

日本人は政治を敬遠する傾向にあるので、政治に熟達していることは希少な能力となり、かえって政治家が特別な存在になってしまう。そう考えれば、私たちが「小さな政治」の場で一生懸命がんばることは、日本の政治風土に変化をもたらす第一歩になるのかもしれません。