「村田翁の演説 首相を痛罵して余念なし」(『東京朝日新聞』1914年3月15日)
シーメンス事件の関連記事。3月13日の貴族院本会議速記録からの転載である。演説をしているのは元水産官僚・貴族院議員の村田保。趣旨としては政府批判、与党政友会批判であるが、口汚さが(ある意味)興味深いので少し引用してみよう。

山本大臣閣下よ、閣下は人間の尊ぶ所の名誉、廉恥と云ふことを本員は御存知なくはないかと云ふことを疑ひます、何となれば人民が閣下に対しまして、公然公衆の前に於て閣下を国賊と言つて居るではありませぬか、又海軍収賄の発頭人だと云ふことを申して居ります、又閣下の面貌は監獄へ行けば類似のものは沢山あると言つて居ります

最後の部分については、当時の流行思想であったロンブローゾ犯罪人類学の影響が感じられる。「犯罪者になりやすい人間は、身体的に顕著な特徴を持っている」という考えのこと。ちなみに翌日の『二六新報』には泉鏡花論として次のようなことがかかれている。「〔鏡花の奇行の紹介に続けて〕「天才は狂気なり」とは、ロンブロゾーの説である、「狂人」が「天才」なのか、「天才」が「狂人」なのか、それは知らぬ〔中略〕私は言ふ、鏡花の「鏡」は、狂人の「狂」であるが故に、初めて其処に彼の価値があるのではないかと……」。
肯定的な意味においても、否定的な意味においても、「狂気」が社会的に注目を集めた時代であった。