原作とは違う、けど面白かった!−『劇場版CLANNAD』の魅力について


古河渚をヒロインとして、原作の「学園編」と「AFTER STORY」を繋げた一本の作品として再構成された『劇場版CLANNAD』。公開初日の今日、観てきました。出崎統監督という時点でオリジナル要素が強いことは予想していましたが、原作ファンにとっても楽しめる作品であると思います。以下、少しネタバレ(読んだら楽しめなくなる、という程ではない)。


主人公の岡崎朋也古河渚、このふたりが共に成長していく物語であった原作に対して、劇場版はあくまでも朋也の成長物語です。その違いがもっとも顕著に現われたのが、創立祭の演劇シーンでした。
原作では創立祭の演劇を通して古河家の絆が再確認される姿が描かれており、朋也はそのサポート役という位置付けとなっています。それに対して劇場版では、演劇の内容が朋也の見る夢と同じであるということにドラマの主眼がおかれています。
単純な原作の継ぎ接ぎではなく、テーマに沿って設定が大きく変更されているため、見始めてからしばらくは「え?」と思うことも多かったです(特に主人公の性格の変化)。ただ、原作ではそれぞれのシナリオの「主役」として描かれていたキャラクタの新しい魅力を発掘することに劇場版は成功しているので、原作のファンにとっても決してつまらない作品ではありません(原作との「間違い探し」から意識を切り離せれば、という条件付で)。
杏や智代といった原作のヒロインたちが、渚シナリオがメインということで出番こそ少ないものの、バイプレイヤとして魅力的に描かれています。原作では主人公にやられっぱなしの春原が逆に主人公を支えたり、良いところのなかった主人公の父親にも見せ場が用意されていたりと、出崎監督のキャラクタに対する愛を感じました。え、「ことみが空気」?一ノ瀬ことみって誰だっけ?
それはともかく、智代が良かった!失意に沈む主人公の家に智代が料理を作りに来たシーンでは、思わず「フラグが立った!フラグが立った!わぁいわぁい!」と言いながら走り回ったというのは嘘ですが非常に可愛くて、劇場に行くまでは渚以外のヒロインには出番がないと思っていたので、余計に嬉しかったですね……。
ただ、演出に関しては若干不満が残りました。舞い散る桜の花については予想通りの美しさでしたが、勢いを強調するために同じカメラワークを何度も繰り返したり、効果線が大量に書かれた止め絵を多用したり、動きに残像を付けたり、会話シーンで画面を分割したりと、出崎監督らしいと言われればそれまでですが、はっきり言って演出がくどいと思います。個人的には密かに期待していた「輝く○○」はしっかりあったので、まあ良いかな、と。


それと、「大切な人をなくしたことがありますか?」という劇場版のキャッチコピー、京アニの「お連れしましょう…この町の願いが叶う場所に」と比べると圧倒的にピンポイントなんですけど、両者のスタンスの違いを端的に表していて面白いなと思いました。膨大な情報の中からひとつのテーマを選び、それに沿って原作の設定さえも組み替えていくという劇場版のスタンスも、これはこれで悪くありません。原作が好きな人にっては京アニの作るTV版の方が心地良いでしょうが、原作では見えなかった魅力を見えるようにしたという点で、劇場版も優れた作品であると思いますね……。


ちなみに僕が一番感動したのは挿入歌でした。『だんご だんご だんご』作詞・出崎統。さすが監督!

だんご だんご だんご だんご
だんごの家族は大家族 いつでも楽しい大家族

毎日、家じゅう 運動会
よいどん、ばたばた徒競走
はいはい お風呂じゃ もぐりっこ
だんご だんごは大家族

不覚にも和んでしまった……。CLANNADがClann as Dangoの略だという説も、まんざら的外れではなかったりして。