ノーマン・ジョンソン『福祉国家のゆくえ』

福祉国家のゆくえ―福祉多元主義の諸問題

福祉国家のゆくえ―福祉多元主義の諸問題

割と古い本ですが、「福祉国家から評価国家へ」という最近の変化を考える上でも結構クリティカルな議論をしているなと感じたので、少し引用してみます。

第一に、経済成長は大分文の人びとが景気後退期においてさえ雇用されていることを意味した。貧困はもはや存在しないという確信が生まれた。豊かな時代における社会的ニードは多くの人びとが共通にわかちあう経済ではなく、個別化されたものとなった。第二に、福祉国家から得られる便益が多くの人びとの共有する問題への対応とはみなされなくなり、こうした給付は多様な利得を計算し、配分する一手段となった。福祉国家からの便益をめぐって集団間や個人間で競争が行われる。このことは、社会的連帯を次第に蝕んでいき、人びとに緊縮型国家を想起させることになる。

そんなわけで福祉供給の主体としての国家は後退していき、代わってコミュニティ、ボランティア、営利団体が主体となる福祉多元主義が登場する。しかし国家は用無しになるのではなく、福祉多元主義が機能するための枠組みの提示と、その維持発展が求められることになる、と。なんだかノージックユートピア論みたいな話になってきましたね。
http://www.meijigakuin.ac.jp/~inaba/nozick~1.htm
宮台真司東浩紀も似たようなことを言っていたと思いますが、何にせよ、そこに生きる人びとにとって重要なのは社会全般の枠組みや評価制度ではなく、その上に築かれる(宮台の用語でいえば)島宇宙の方であり、黒子に徹する前者を積極的に支持しようとする動機付けに乏しい、という問題はあるかもしれません。