『ムシウタ』の原作についてきた栞とアニメ版の話

本屋さんで『ムシウタ』を購入したところ、こんな栞がついてきました。

「虫」に寄生された人間を描く『ムシウタ』ですが、「虫」とは「本の虫」のことであり、諸悪の原因は本を売りさばき読書人口を増やそうと企む角川書店だという壮大なネタバレ……という冗談はさておき、今回は物語も佳境に入ったアニメ版の話。

ムシウタ 第1巻 限定版 [DVD]

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僕の場合この作品にはアニメから入りましたが、原作の方もだいぶ読み進めました。巻を重ねるごとに着実に上手くなっていく、幸せなシリーズだと思います。最初のころは表紙のイラストに600円払うつもりで買っていたので、すごく得した気分。
巻を重ねるごとに上手くなっている、ということは、逆に言えば1巻が一番つまらないんですよ。全体の構造がミステリィになっていないのに、無理矢理に視点人物の正体を隠そうとする部分的ミステリィを組み込んだものだから、そこが全体の雰囲気を壊してしまっているのですね。
アニメの方も一番つまらないと僕が言う1巻をベースにしているわけですが、こちらは意外なほど面白い。映像でも上述した部分的ミステリィを組み込めないこともないでしょうが、それをざっくりと排除し、ビジュアル的なインパクトを重視して原作の改変を積極的に行ったことで、非常に完成度の高い映像作品となっています。
例えば第1話のラスト、踏み切りの向こうに詩歌を見つけた大助が、踏切を飛び越えて駆け寄るシーン。これが原作だと、大助は電車の中にいて、詩歌を見つけると非常停止ボタンを押して電車を止め、ドアをこじ開けて外に出て彼女の元に駆け寄る、というシーンでした。
アニメを見たときも何だこのぶっとんだやつはと思いましたが、原作の方がもっとぶっとんでいる。ただ、映像として華があるのはアニメ版の方。これは非常に良い改変であると思います。
ドラマ部分は全般的に原作より良かったですね。中盤のオリジナル展開も『ムシウタ』としては異色な話ですが、それだけに新鮮でした。それと詩歌の可愛さは異常。

原作の改変を批判する人が多い作品ですが、原作の構成をなぞっても面白くはならなかっただろう、と僕は思います。例えばの可愛さを伝えるのに、小説なら詩歌かわいいよ詩歌と書けば済むところを、アニメでは可愛さが伝わるシチュエーションを用意しなければならない。その点、『ムシウタ』は良かったですね。雨の冷たさが悲しみを、夜の暗さが孤独を、とシチュエーションが心情を的確に表現しているシーンが多く見られました。
人によって考え方が違うでしょうが、僕はアニメというメディアについて、その特性を生かす方向へと進んでいくべきだと思っています。キャラクタの心情は台詞でも表情でもなく、雰囲気で表すのが最高。同意は求めません。


というわけで僕の中では評価の高い作品なのですが、戦闘シーンの大味さはちょっと許容しがたい部分が……。

攻撃範囲の広さで強さを表す、というのはドラゴンボールみたいで安直だし、虫がジェット噴射で飛んだり、原作でイラストが描かれていない虫のデザインが変だったりで、せっかくのシリアスな雰囲気がもったいないなと感じることが多かったです。

あと、4話と5話の間、8話と9話の間で話が飛ぶんですよ。いったい何があったんだ、という感じなんですが、そこは原作イラストの人が書いたネタ日記で補完すればおっけーということで。霞王かわいいよ霞王。
http://homepage2.nifty.com/BWG/nikki/08_hota.htm


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