岩井恭平『ムシウタ(1)』

ムシウタ〈01〉夢みる蛍 (角川スニーカー文庫)

ムシウタ〈01〉夢みる蛍 (角川スニーカー文庫)

夢を代償に超常的な力を与える「虫」、これはその虫に憑かれた「虫憑き」たちの物語です。
第1巻では設定をがしがし解説しながら、主人公の大助と詩歌の出会いと再会、虫憑きの2大勢力「特環」と「むしばね」との抗争の終結まで描かれています。とはいえ、明らかに続きがあることを前提とした終わり方のため、第1巻だけでは少し消化不良気味ですね。
さて、この物語の主軸は「夢」とどう向き合うかということにあります。しかし、その「夢」はひどく曖昧で、「自分がいてもいい場所がほしい」というような、それを望む本人にとっても具体的なものではありません。
そのため、彼らの行動は矛盾して見えたり、合理的な理由があるのかそれとも衝動に突き動かされただけなのか判然としなかったりと、つかみどころがありません。このような「曖昧さ」を曖昧なままで物語の主軸に据えたこと、その点においてこの作品は非常に冒険的な作品です。
ただ、アニメ版を見た直後だとどうしても構成の不備が目に付いてしまいます。例えばカッコウの正体は終盤まで伏せられているのですが、意外性があるというわけでもなく、積極的な意味を見出すことは困難であると思われます。また、海浜公園の戦闘のあとで詩歌と利菜が語り合うシーンも不自然。戦闘のあとは「空き地に移動した」とあるだけで、場面転換の印象が弱く、緊張感が途切れないままのんびりした会話が始まってしまい、ひどく場違いな会話をしているように読めました。
もっとも、こういうのは執筆を続けていくほどに上手くなっていくものなので、2巻以降も期待しながら読んでみようと思います。