『H2O 〜FOOTPRINTS IN THE SAND〜』に関する雑感

そろそろ『H2O』についての記事を書こうと思ったら、時の音の精霊にしてこの作品唯一の良心であるところの音羽ちゃんがベネズエラ精霊界に帰ってしまい意気消沈のtukinohaです。
音羽ちゃんがいない今となっては、特に何か書こうという気になれない作品なんですよね……。今期放送されている作品群における位置づけを探ろうとしても、ギャルゲ原作という文脈においては『CLANNAD』があり、画面構成の洗練度という点においては『true tears』があり、第8話「音羽」で見せたメタフィクションの切れ味においても『俗・さよなら絶望先生』がある。どの切り口から見ても中途半端というか、「『H2O』はここに注目!」というポイントが見つからなくて、批評の対象として挙げづらいという印象を受けます。
唯一異彩を放っているのがテーマ、つまり土俗的社会における差別の問題ですが、これも率直に言って微妙かなぁ、と。まずメッセージそのもの、あるいは着眼点に何らかの目新しさがあるのか、という点がひとつ。例えば『ひぐらし』と比較した場合、子ども社会の醜さ、大人への追従を描いたという意味では新しいのかもしれません。ただ、結局は「大人対子ども」の図式に収まってしまうわけで、その点においては非常に中途半端。
新しくなければいけないのか、物語の完成度で勝負すればいいじゃないか、という反論も考えられるでしょう。実際に現代の倫理哲学においても、物語において倫理的見解を表明する場合に重要なことは説得的描写を通して「他者の受苦への共感」を促すことである、と考える立場は確かに存在します。
参考記事:2008-02-07 - tukinohaの絶対ブログ領域
その点『H2O』はどうなのか、という話になるわけですが、どうしてもミクロとマクロ両方のレベルにおいて描写の甘さ、説得力の無さが目に付きます。まずミクロなレベルでは、痛々しく描かれるべきシーンが痛々しく見えない、という点が問題として挙げられます。例えば第1話、2話、10話のはやみが殴り倒されるシーン。どの回も作画がいまひとつなんですが、一番酷かったのは第2話ですね。



何故か最初から地面が濡れており、水をかけられると逆に地面が乾く。「体は防水加工で出来ています」というくらい水が弾かれる。あまり作画オタク的な話をするのは好きじゃないのですが、『H2O』のように説得的な作品ではディテールが作品の評価に直結するので……。
第8話では魔法少女アニメのパロディOPがありましたが、尺が1分だけと微妙に短くて、きっちり1分半作って欲しかったな……って、これはどうでも良いか。
マクロなレベルだと、そもそも説得的な描写が存在しません。これまでの展開ではやみとクラスメイトの和解はほぼ完了したと思われますが、実際にその過程が描かれたのは「ほたる」と「ゆい」のふたりだけですよね。ミクロでの和解がいつの間にかマクロの和解と同一視されている。こういうのを「セカイ系」と言うのでしょうか(違うか)。
どのレベルにも共通して言えることは、「何が」起こったかということは描かれても、「どんな風に」それが起こったかは描かれない、ということ。琢磨の母親が自殺した話についても、そのディテールはまったく明らかにされず、「どうも小日向の一族が悪いらしいぞ」という程度に止められます。


ここまで批判的な意見を書かせてもらいましたが、しかし、これまで放送された全10話のうち、第9話だけは例外的に良いと僕は思います。大量の水(お風呂とかプールとか、海とか川とか)が出てくる回は作画が崩れやすいというジンクスに対して忠実な『H2O』も、第9話に限っては決して悪くありません。

ぼんやりと天井を見上げるはやみが妙に可愛い。画面構成においても空間を広く使っているなという印象を受けました。例えば以下のショット。

本音を打ち明けるシーンで「縦の構図」って、先日の記事で書いた話そのままですね。
参考記事:2008-02-25 - tukinohaの絶対ブログ領域
ただ、この次の構図もやっぱり「縦の構図」で、少しくどいのではないかと思いましたが……。
一番良かったのは物語のリズムでしょうか。冒頭では音羽のことを話題にして「もう、いないのですか?」と言ってから、音羽が木陰に隠れる姿が描かれています。

能で有名な世阿弥は「先聞後見」、つまり「最初にそれが何であるかを聞かせて、後で実物を見せよ」ということを主張しています。言葉のイメージを映像で膨らませることの重要性は、能に限らず映像作品全般にも言えることでしょう。これが逆になると、映像の多様なイメージが言葉で限定されてしまう。『H2O』で陳腐だなと感じるシーンは、だいたいこのパターンに該当するのではないでしょうか。


それにしても、あと2,3週間で今放送しているアニメのほとんどが最終回を迎えるんですよね……切ない……。『CLANNAD』とか『神霊狩』とか、最初のほうで一回触れただけでその後は記事にしていないし。特に後者は傑作だと思いつつ放置。愛に時間を、なんて思いつつ今日はこの辺で。