今月の芸術新潮はモディリアーニ!というわけで『モンパルナスの灯』

今月の芸術新潮はエコール・ド・パリ一番の伊達男アメデオ・モディリアーニとその妻ジャンヌの特集「モディリアーニの恋人」が面白いですよ。

芸術新潮 2007年 05月号 [雑誌]

芸術新潮 2007年 05月号 [雑誌]

芸術新潮は大好きな雑誌です。何が良いって、この雑誌では特集を組む作家や作品だけではなく、その周辺分野まで手広く紹介するのですが、周辺分野の情報をもって対象作品を掘り下げていくプロセスが実に鮮やかなんですね。今回もモディリアーニを扱った映画まで紹介して、ボリューム満点。
で、今日はそのモディリアーニ特集で紹介されていた映画の話をしましょう。
モンパルナスの灯 [DVD]

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「僕は大勢の間にいる方が好きだ。孤独になれるから」

ジェラール・フィリップ演じるモディリアーニ(劇中ではモジリアニ)はアル中の、割とどうしようもない人間です。それなのに何をやらせても絵になるんですよね。かといって『モンパルナスの灯』はモディリアーニを持ち上げるような作品ではありません。
これは芸術新潮の特集記事に書かれていたことですが、モディリアーニの交友関係は3つのパターンに分けられるそうです。尊敬できる人間とは距離を置いて付き合い、自分と似たところのある人間とはあまり仲良くなれず、社会的落伍者みたいな人間とは親友になった、と。
モディリアーニにはそういう俗っぽいところがあったのですが、酒と薬物による死、妻の後追い自殺という悲劇性は彼を天才として祭り上げました。しかし、『モンパルナスの灯』のモディリアーニにはそういうところはほとんど見られません。確かに全て史実通りというわけではありませんが、その人物造形には極めてリアリティがあります。あと、モディリアーニが死んだのを見計らって彼の作品を買いに来る画商とか。残酷な話ですが、だいたい史実通りだというのが世知辛い。
それにしてもアヌーク・エーメは良いですね(脈絡なし)。ジェラール・フィリップも本物のモディリアーニに匹敵するくらい格好良いし、脇役もみんなセンスが良くて、パリジャン・パリジェンヌはかくあるべしという感じ。今のハリウッドスターにもいませんよ、こんな人たち。
あとは音楽。パリを舞台にすると街に音楽があふれていて、ああこれはBGMだなと意識せずに音楽を聴くことが出来る。その辺り、フランス映画は強いですね。
確かに表現技術だけで言えば『モンパルナスの灯』は大したことのない作品でしょう。それなのにグイグイと引き込まれてしまう。これはもう、他の何物でもない、まさに「映画」としか言いようのない奇跡であると僕は思います。