ウィリアム・ワイラー『ローマの休日』

芸術新潮 2007年 08月号 [雑誌]

芸術新潮 2007年 08月号 [雑誌]

今月の芸術新潮はローマの大特集です。
と言っても、ローマという都市は古代から現代まであらゆる時代の遺跡が残っているわけで、一冊でその全てはカバーしきれません。そのため、この特集では中世の遺跡に的を絞って解説しています。もっとも、ローマの通史(ある意味カトリックの通史)はしっかり押さえてあるのでご心配なく。かつては暗黒時代と呼ばれた中世美術に正面から切り込んだ大特集。オススメです。それにしても絵になる街だな……
ついでに便乗してこんなのも紹介しましょう。
ローマの休日 製作50周年記念 デジタル・ニューマスター版 (初回生産限定版) [DVD]

ローマの休日 製作50周年記念 デジタル・ニューマスター版 (初回生産限定版) [DVD]

ローマの観光業界にこの上ない貢献を果たした作品といえば、これをおいて他にないでしょう。ただし、この映画には上の特集で登場する中世美術は一切含まれていないのでご注意を(ならどうして取り上げるんだとか言ってはいけない)。
ある小国のアン王女はローマの訪問中に宮殿を脱け出し、街へと遊びに出かけます。そこで出会ったのが新聞記者のジョージョーは彼女が王女であることに気付いていましたが、スクープ記事をモノにするチャンスだと考え、正体を隠したまま王女にローマの街を案内することに。
いわば、王女と新聞記者がローマを舞台に繰り広げるおとぎ話。シンデレラは鐘の音と共に庶民の姿に戻りましたが、こちらの場合は庶民から王女へと戻っていくことになります。
恋愛映画としては古典中の古典ですが、やっぱり面白いですね。特に物語のラストシーン、記者会見に臨んだアン王女はそこでジョーと再会します。
形式的な言葉を交わす2人。見つめあい、やがて離れていく。他人の顔をして。
演出を極力廃し、クローズアップの表情だけで恋の結末を、そして王女の成長を描ききったこのシーンからは「描かない凄さ」を感じました。報われない恋だからといってうじうじするのではなく、悲しみをぐっと堪え、気高く歩いていくアン王女。この映画は恋愛だけを描くのではなく、あくまで成長と絡めて恋愛を描いているんですね。だからラストシーンの別れが自然に見える。
それにしてもアン王女役のオードリー・ヘプバーンが美しい。彼女はこの映画によって無名の女優からハリウッドのスターへと駆け上がっていくわけですが、それも当然といえば当然の話。この映画は彼女の外見上の美しさだけではなく、内面からにじみ出る気品をしっかりと捉えています。宮殿を脱け出したわがままな王女さまがある休日の体験を経て、再びドレスに身を包んだときの変わり様。この内面の変化が画面の向こうからびしびし伝わってきました。