アメリカン・ニューシネマ特集その1『俺たちに明日はない』

アメリカン・ニューシネマ」という言葉に明確な定義があるわけではなくて、1960年末から70年代半ばまでに撮られた「新しいタイプの」ハリウッド映画群を指す、かなり曖昧な概念です。映画区分なんて大体そんな感じではありますが。
さて、アメリカ文化を代表するものとしてハリウッド映画には1930年代から検閲制度が適用されていました。ところが60年代にそれが廃止されたことによって生々しい暴力シーンや流血場面がスクリーンの中へと登場することとなります。その嚆矢となったのは67年の『俺たちに明日はない』で、それをタイム誌が「ニュー・シネマ/暴力・・・セックス・・・芸術」というタイトルで特集したことから「アメリカン・ニューシネマ」という言葉が生まれたわけです。
加えて、ヴェトナム戦争実存主義ブームによる価値観の変化も作品に大きな影響を与えています。具体的には模範的なヒーロー像からアンチ・ヒーローへの転換、それとハリウッド映画の特徴であった「ハッピーエンド」の否定が挙げられるでしょう。社会とは不条理なものである、と。
技術的な話は次回に回すとして、今回はニューシネマの第1号作品である『俺たちに明日はない』を取り上げてみましょう。

俺たちに明日はない [DVD]

俺たちに明日はない [DVD]

アーサー・ペン監督作品。当初は監督候補としてトリュフォーゴダールが挙げられていたことからもわかる通り、ヌーヴェルヴァーグの影響を受けたドキュメンタリィ的な要素を多く持っています。
元ネタは大恐慌時代に実在した「ボニーとクライド」という銀行強盗の話。ロマンチックに脚色されてはいるのですが、それでも各々のエゴをぶつけ合うような「生々しさ」が画面から滲み出てくる辺りはヌーヴェルヴァーグっぽいですね。
さて、物語はボニーとクライドの出会いから始まります。スリルと周囲の反応を求めて銀行強盗を繰り返す彼らでしたが、やがて自らが引き返せないところまで来てしまったことに気づき、そのまま破滅へと突き進んでいくことに。
主人公たちの生き方を見ていると、刹那的で、むしろ死の衝動に駆られて動いているような印象さえ受けるでしょう。ニューシネマには放浪者を描いた作品が多いのですが、これは頼るべき権威を失った60年代のアメリカ社会を表現しているのかもしれません。
見所は何といってもクライマックスシーン。周辺の茂みから銃口が現われ、一斉に銃弾が放たれます。蜂の巣にされるボニーとクライド。このシーンはスローモーションで描かれるのですが、これが「死のダンス」と表現されるほど美しい。そして倒れこむ2人。そのまま後日談も何もなしで「THE END」。この唐突さにはビックリしました。次回取り上げる予定の『イージー・ライダー』もそうですが、「起承転結」が当てはまらない、淡々としたストーリィ構成もニューシネマの特徴ですね。
もうひとつ魅力を挙げると、ボニー役のフェイ・ダナウェイが凄く良かった。理性の中に危うさを秘めた女性の姿を完璧に演じきっています。