世界ノ全テ

閉寒された空間の中で、目を閉じてはあなたの言葉を思い返す。
満足に動かないこの足でさえ、私は空を駆けることが出来たわ。
そう、たとえそれが虚構だとしても
…私にとって…
それが…世界の全てだった

主人公は優秀な兄に劣等感を抱く高校生。彼は転校先の高校で智子という少女と出会います。
屋上で会話を重ねるふたり。そして、かつての友人達が運営する軽音楽部への参加。智子の奏でるピアノのメロディ、彼女が作った名も無き歌……。
この作品で描かれるのは、音楽を通して友情を育てていく、あまりにシンプルな青春の物語。
「All that I could see seemed to be everythin of the world……」

pf ピアノフォルテ 世界ノ全テ インストゥルメンタルアルバム

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関西弁キタ!!!
ヒロインが全員関西弁、というありそうでなかった作品、それが「世界ノ全テ」です。いや〜本当に素晴らしいですね。数多くこの手の作品をプレイしている人なら食傷気味のありふれたセリフが、ただ関西弁というだけで新鮮なものに感じられました。この作品の成功は、関西弁に因るところが大きいと思います。では、それ以外の部分も。


シナリオは3本ありますが、それら全てが、メインヒロインである智子のシナリオを骨子としているため、実質的には1本のシナリオを別の視点から眺める形式となります。
ただ、別の視点から眺めると言っても、その視点があまりにも近すぎる、主人公の心理状態もほぼ共通であるため、違いが殆ど感じられませんでした。それぞれのシナリオの最後だけ無理矢理挿げ替えた感じ。繰り返しプレイすることを前提に作られたゲームとして、この構成は少しマイナスです。
ただ、その分と言っては何ですが、智子のシナリオは素晴らしいの一言。様々なレベルにおいて「世界ノ全テ」というタイトルの意味が提示されています。
それは、「僕の見えるものだけが世界ノ全テに感じられた」という意味だったり。
物理的な意味での閉じられた空間だったり。
そして、物語の最後に示される本当の意味。
それらの全てがプレイヤーにとって「山」なのですが、それを越えても山がある。一体どこで落ちるんだ?とプレイヤーは暗闇の中を手探りで歩くような気分になります。それだけに、クライマックスは切ないけれども、明るい。優しい光のようでした。
そして、物語と密接に関わりあう音楽。ブックマークに入れておいたので、ぜひ聴いてみてください。特に『freewill』と『未完成の城』は秀逸。


最後に、この作品は主人公が弱くて弱くてどうしようもありません。肝心な時に何も出来ず、ただ無力感に苛まれる主人公。ディスプレイの向こう側でただ見守っているだけの僕たちには歯がゆくてしょうがないのですが、その一方で共感も感じていました。
これは、青春を描くということのリアリティだと思います。むしろ、普通の主人公が格好良すぎるだけで。そういうことを考えながらプレイしてもらえると、イライラしなくて済むのではないでしょうか。
まったく、愚直なくらいに素直で、書きたいことを全てぶち込んだ、バランス無視の愛すべきゲームだと僕は思います。
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