『Rewrite』論のためのノート(2)

Rewrite 初回限定版

Rewrite 初回限定版

サボっているあいだに原稿の締め切り直前となってしまったので、ペースを上げていきます。今回は個別ルート。
個別ルートは物語全体のなかでの位置づけが難しい。というのも、後のTerra編で明らかとなるように、個別ルートに入ってしまったことがそもそも失敗であるのですが、その一方でTerra編に至るために必要な条件(つまりMoon編の瑚太郎を構成する要素)のいくつかがここで満たされるからです。
・特別でない自分
特別だと思っていた自分が、実は全然特別ではない。それが最も露骨に示されるのが『AURA』なのですが、『Rewrite』ではそこからふたつの教訓が導き出されます。1.組織を作ること。2.他者とのかかわりのなかで心を養うこと。1について。全ルートのなかで最も悲惨なのが、組織に属さず戦う小鳥編であり、それと同じくらい悲惨でありながら成果を得るのが、複数の組織に属しながらどちらも裏切るTerra編である、ということを踏まえておきましょう。
・社会の冷たい合理性
朱音編で描かれる聖女会のあり方は興味深い。というのも、それは社会から排除されたものを含めて社会が成り立っていることを示唆しているからです。

朱音「人がたくさんいて、その中で生きることが、つらいの」
(朱音編)

津久野「他に行く場所のない人間、世を儚んだ人間、心が人とは違う人間。/かけこみ寺のようなものですね」「昔は、こういう者たちは迫害されるか、崇められるかのいずれかだったのでしょう」
(朱音編)

突っ込んだ分析はできませんが、「世間」「社会」「世界」がそれぞれ異なったニュアンスを込めて使われているような気が。(「世間」はあまり使われず、「社会」は否定的に言及されるか合理性が強調されるかであり、「世界」はその狭さが強調される)。「社会」と「世界」をあわせて「システム」か。

朱音「システムは全て繋がっている。調整とは、全体を見渡す高い視点がなければ成立しないわ」
(共通11月6日)

・もっと早く生まれていれば

瑚太郎「どうして俺は、「もっと早くに生まれなかったんだ…。/50年、いや、10年でいい…。/決定的に手遅れになってから、真実が見えたって…どうしようもないだろ」
(朱音編)

後の伏線であることは当然ながら、瑚太郎とヒロインの関係が問題にならざるをえないでしょう。物語のヒロインたちよりも10歳近く年上でありながら、そのことに気付かず、またそれによってヒロインたちとの蜜月が可能になっている。これを『Rewrite』とその読者との関係になぞらえて語ることはもちろん可能なのですが、私の趣味ではないので省略。
・誰かを犠牲にして、誰かとの閉じた関係に入っていくことへの批判
篝を殺すことで可能になるヒロインとの関係。『C†C』で回避されたのはまさにそのような関係だし、『リトルバスターズ!』で回避されたのもそれですね。

「おまえたちは幸せになれる。/何が不服だ」
みんながいない。
(『リトルバスターズ!』エピローグ)

・命のエコノミー
朱音編に登場する洲崎は「魔物」の技術を広めることで「星の寿命を伸ばす」ことをもくろみます。失敗するわけですが、Terra編と手段において共通し、目的において異なっていることに注目。
・吉野の役割
『イマ』の伊勢崎宗太と同じ。自分を嫌ってくれる人間が必要。ただ、設定的に『イマ』の主人公と近いのは、瑚太郎よりもむしろ朱音。聖女に受け継がれる「心の転写」の力によって、自分のコピーを作ってしまう。だから「私、人間が気持ち悪い」
サヴァンというモチーフ
ロリ朱音に対し「彼女は自分のルールで生きていた」「この子は幸せであるはずだと思ったのだ」。⇒Moonの篝へ。心がないのではなく、違ったルールで生きている他者との交流。元をたどれば『星空☆ぷらねっと』の藤原佳多奈に行きつく。

朝末「自閉症ってのは、自分で殻に閉じこもったことを指してるんじゃないよ。/違うルールを持ってしまっただけなんだからね。/あたしらとは異なったルールをね」
(『星空☆ぷらねっと』藤原佳多奈編)

『星空』とは宇宙開発という共通モチーフを持っているわけだが、その話は後日。
・内か外か

小鳥「……瑚太郎君の超能力って、魔物作りと同じ力なんじゃないかな?」(中略)「魔物使いは対象物を、瑚太郎君は自分を。/外か内かの違いだけで、根源は同種なのかも」
(小鳥編)