『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』

タイミングを逃して今まで見ていなかったのですが、名作揃いの劇場版「クレヨンしんちゃん」の中でも最高の作品でした。号泣したよ!遠い昔に失ってしまったものの残り香に固執する大人たちと、今と未来に希望を持った子どもたちの対立というありふれた話が、情感溢れる演出で魅力的に描き出されています。
物語の骨子を大雑把に書いてみると、かつて未来に果てしない夢を抱いた大人たちは、それほどでもない現代に失望し、20世紀の夢は失われたと考えた。しかし、現代に生きる子どもたちは決して不幸ではない。今も同様に魅力的な夢があり、幸せがある。問題はそれに気づくかどうかだ……という話。
個人的にぐっと来たシーンはふたつ。ひとつは、少年期の回想を経て現実に帰ってきたヒロシがおいおい泣いているところ。もうひとつはしんのすけの「オラ、大人になりたいから!」というセリフ。
ヒロシは、一度失った「懐かしいもの」を再び失う痛みを経験することで、その後の「家族のいる幸せを、あんたたちにもわけてやりたいくらいだぜ!」というセリフを紡ぎだすことが出来ました。また、しんのすけは「大人になりたい」と叫ぶまでに、長い階段を登りながら転んだり倒れたりして傷だらけになっています。
未来に向けて歩き出すことは単純に幸せで素晴らしいことであるとは言えないず、そのとき同時に「何か」が失われている。未来を獲得した「喜び」と合わせて、それに伴う喪失の「痛み」が描き出されている。こういった点に、ただ感動させるだけに留まらない物語の深さを感じます。