『ef - the latter tale.』デモムービーの分解と批評

追記:ゲームの総評はこちらです。


昨日も書きましたが、minoriの新作、そして新海誠の新作である『ef - the latter tale.』のデモムービーが公開されました。
minoriの公式サイトから高画質版をダウンロードすることが出来ますが、公開初日の昨日は回線が混雑していたせいか、あるいは光の神様の機嫌を損ねたせいか僕には出来ず、結局きょうの朝6時に起きてアクセス。あっというまに終わりました。
これからその高画質版をもとに映像の分解と批評を試みます。しかし、いかんせんカット数が3分弱の映像とは思えないほど多いので、気になった部分だけを重点的に。あと、僕と似たような境遇の方のためにyoutubeに公式アップロードされたものを張っておきますが、ぜひ頑張って高画質版を入手してください。

1.おおまかなストーリィ
面倒だったら読み飛ばしても良い部分。シーンの分け方は割と適当です。
シーン0・10年前の「優子」と「みき」の出会い(回想)。
シーン1・ミズキ/夏服/サイドテール
池の水面に映った空を、カメラが映している。雨が降り出して、水面の空が揺らめく。徐々にカメラは水平方向を向き、池のほとりに立つミズキを遠くに捉える。カットが何度か切り替わった後、まずは仰角でカメラに衝突した雨粒が波紋を広げる光景を描き、次に俯瞰で、上を向いたミズキの瞳向かってカメラが接近。このときカメラは雨粒に擬されており、これまでのカットとの繋がりによって、雨粒がミズキの瞳に吸い込まれたと受け手は認識する。
シーン2・ミズキ/夏服/サイドテール
ミズキの瞳に吸い込まれた雨粒が、ミズキの中に溶け込んでいくイメージ。オーバーラップで次のシーンへ。
シーン3・ミズキ/夏服/サイドテール
雨に打たれながら、ミズキは丘の上から音羽の街を見下ろしている。雲の隙間から街に差し込んでいた光が徐々に消えていく。この光を「明るさ」「希望」の象徴と考えると、次の寂しいシーンと上手く繋がる。左上にタイトルが現れる。
シーン4・ミズキ/夏服/ツーテール
幾何学的な柵を滑るように降りていき、その向こう側にいる前作の主人公たちの集団(広野紘・宮村みやこ、堤京介・新藤景)と、それと微妙な距離をとるミズキを捉える。取り残されたミズキ、というイメージ。なお、ここでミズキの髪型が変わっている。サイドテールからツーテールへ。
シーン5・みき/冬服、優子/制服
浜辺にたたずむ優子とみき。みきは絵を描いているが、何を書いているのかはわからない。みきが優子を見上げる動作に合わせてカメラはどんどん上を向き、舞い上がる羽、そして空を飛ぶ紙飛行機が連続して映される。どちらも前作から登場するモチーフ。なお、ここでの優子は音羽学園の制服を着ている。
シーン6・ミズキ/冬服/ツーテール
ふたたび雨に打たれるミズキ。さりげなく制服が変わっている。ここまでが夏服で、この後が冬服。オーバーラップで次のシーンへ。
シーン7・みき/冬服、優子・火村・久瀬/制服
雪の中たたずむみき。シーン6のミズキとポーズ、天候が良く似ている。両者の深い関係を暗示しているものと考えられる。みきが少し顔を上げると、廃墟にいる3人の姿がモンタージュされる。おそらく優子・火村・久瀬。全員音羽学園の制服を着ている。
シーン8・ミズキ/冬服/ツーテール
場面がシーン6に戻り、降っている雨が高速度カメラのようにゆっくりと映される。雨粒がミズキの口の中へ。人物と景色の時間が一致していないのがこのシーンの特徴。ふたたび街を見下ろすミズキ。シーン3とは逆に、街に差し込む光が増えていく。
シーン9・ミズキ/冬服/ツーテール、優子/私服
空の中で水平方向を向いていたカメラが、回転を加えながら下を向く。同時に螺旋階段が出現。カメラの動きと、螺旋階段の構造が一致。次にカメラは、螺旋階段を軸として水平方向に回転。そして優子が階段を下りてくる。ミズキ、それを見つけて手を伸ばす。カメラは優子を軸として、回転を加えながら上を向く。
シーン10・ミズキ/冬服/ツーテール
優子に向かって走るミズキ。ミズキを軸としてカメラはぐるりと一周する。アニメ版『CLANNAD』のOP冒頭と似ているかな。しかし、視点がとんでもなく低い。
シーン11・優子/私服
ふたたび優子。悠々と階段を下りてくる。カメラの動きも穏やか。
シーン12・ミズキ/冬服/ツーテール、火村・久瀬/私服
走るミズキ、花束を持った火村、バイオリンを弾く久瀬が続けて映される。前作のOPで火村は墓場に座っていたことを考えると、ここでも火村は墓参りのために花束を持っていたと考えるべきか。
シーン13・ミズキ/冬服/ツーテール、みき/冬服、優子/私服
教会の前でたたずむ優子のもとに、ミズキがたどり着く。と思った瞬間、優子に抱きついたのはみきだった。羽が舞っている。オーバーラップで次のシーン。
シーン14・ミズキ/冬服/サイドテール
何か大切なものを胸に抱きしめるようなミズキを映して、画面は徐々に暗転。このときミズキの髪型がサイドテールにチェンジ。
シーン15・ミズキ/夏服/サイドテール
テロップを背景に、ミズキと火村が会話。ここでのミズキは中等部の制服を着ている。火村がミズキに向かって「お前は誰だ?」と問いかけ、エンド。


長い!というわけで時系列順に整理してみましょう。
手がかりその1・髪型
ミズキの髪型は「ある時点」でツーテールからサイドテールに変化する。
手がかりその2・服装
優子/火村/久瀬に関しては制服⇒私服。ミズキは冬服⇒「first tale.」第一章もしくは「latter tale.」第三章、「latter tale.」第4章後半(自信なし)。夏服⇒「first tale.」第二章もしくは「latter tale.」第4章前半(自信なし)


もっとも古いのは、シーン0における優子とみきの出会いのシーン。次に古いのはシーン5・7のみきと音羽学園の生徒である優子・火村・久瀬のシーン。どうも彼らの間に何らかの関わりがあるようです。

これらのシーンにおける問題は、音羽学園の生徒たちがはっきりとは誰も顔を見せないということ。どのシーンもみきの視点で描かれているので、実際はみき視点の回想であり、そのためみきの記憶がはっきりしない部分はぼかして描かれている、ということでしょうか?(コメント欄から追記)中盤の歌詞に「記憶の闇が刻む時、今も終わらなくて」とあるので、現在でも「みき」を覆い続ける「記憶の闇」を表現したものである、という説は説得力がありますね。
次は『ef - the first tale.第2章の直後だと思われるシーン4。

判断基準はミズキの髪型と、夏服、広野紘が私服で歩いている(第1章(冬)で音羽学園を中退するため)、という点。『first tale.』では完全に「明るいキャラクタ」として表現されていたミズキが、実はその裏側で寂しさを抱えていた、ということをアピールしているようです。それぞれの道を歩き出した4人を追いかけるミズキ。遮蔽物越しに垣間見るという形式を取っているあたりは、アニメ版からの影響がうかがえます。
次に『ef - the first tale.』よりも少し後、『ef - the latter tale.』との境界にあたる時期がシーン6・8・9・10・11・12。ミズキは、空から降りてきた優子を見つけ、彼女の元へと走っていく一連のシークエンスです。

制服は冬服に、髪型はツーテールのまま。ここでは優子も、火村も、久瀬もみんなはっきりと顔を見せます。ミズキと久瀬に何の絡みもないというのが意味深。
次に、髪型がサイドテールに変化していることから『ef - the latter tale.』の時期であると断言できるのがシーン1・2・3。

序盤のシーンが時系列では終わりのほうに位置する、という仕掛け。同じサイドテールで、制服が冬服になっていることから最後のシーン14はその後でしょう。
そして分類できないのがシーン13。一応は12の後に来るのですが、モンタージュによって過去と現在が繋がれています。このシーンをどう解釈したものか……というのが、次の話題。シーン15は1・2・3とミズキの姿が同じですが、その前後関係は不明。
要するに、時系列順に並べ替えると
シーン0→5→7→4→6→8→9→10→11→12→13→(15?)→1→2→3→(15?)→14
となります。1・2・3から長い回想に入り、そのあと1・2・3の時間に戻るのではなく、さらに先へと進む、という変則的な構成。わかりづらい!


ここでひとつ、デモムービーの内容を踏まえて本編に関する疑問を洗っておきましょう。
まず問題となるのは、優子を追いかけるミズキが「冬服/ツーテール」という「first tale.」第一章のときと同じ姿であること。2人の物語はいったいいつ始まるのか?
次の問題は、ミズキがいつ髪型を変えるのかということ。第4章が始まった直後、途中、その後の3パターンが考えられます。
要するに、一章と三章が同じ時期なのは公式サイトの情報から判明していますが、二章と四章前半の対応関係、四章後半の時期に関しては不明です。
仮説を立てるなら
①第一章・第三章(1年目冬)から続けて第二章(2年目初夏)と進む間に、平行して四章後半の物語が進行している。
②第二章の終了後、少しの間をおいて第四章前半(2年目晩夏)がスタート。
③第四章前半終了後、火村とミズキが接触。火村の「お前は誰だ?」
④第四章後半開始(2年目冬)。
という風に考えたわけですが、どうでしょうか。


2.「みき」=「ミズキ」?
まずは冒頭。黒い背景に「10years ago,in Otowa city...」という文字が浮かび上がり、時間と場所を指定するところから「優子」と「みき」の会話が始まります。
括弧内の台詞は画面内のキャラクタが発するインの音、他は「ミズキ」によるナレーションです。

「わたしは、優子っていいます」
「ゆうこ」
「ええ、優子です。あなたのお名前は?」 それは、その名前にたどり着くまでの物語
「みき」 これは、最果ての冬の一幕。
「みき……ちゃん?」
「みらい」
「え? どっちなの?」
「“みらい”って書いて、“みき”って読むって……」
「ああ、そういうことですか……いい名前ですね」 なんでもない、ひとつの出会い。
「……うるさい」 しかし、はじまりは確かにここだったのだ。

会話中での「みき」の声は、ナレーションの「ミズキ」の声を幼くしたものです。さらに
「ミズキ」の声で「はじまりは確かにここだったのだ」と言及することにより、「ミズキ」が冒頭の舞台を記憶していることが明らかとなり、「みき」=「ミズキ」説はより一層確実なものと感じられるようになります。
デモムービーの最後でさらにダメ押し。




走るミズキ。優子を見つけ、一瞬立ち止まる。すると次の瞬間、ミキが優子に抱きついている姿がモンタージュによって繋がれ、ミズキがみきに変身したのか、と受け手に思わせる。
この美しいモンタージュを見れば誰だって「みき」=「ミズキ」と予想するでしょう。モンタージュによってみきとミズキが一体になる、「それは、その名前にたどり着くまでの物語」という言葉とも整合性が取れています。しかし、そのような「当然」とも思える予想に待ったをかけるのが最後の対話です。登場人物は羽山ミズキと火村夕。

「本当は、本当の場所に手向けたかったんですけどね」
「お前は……」
「え?」
「お前は誰だ?」

そして再び背景は黒一色となり、そこに「05・30 Then,the separated two will be the one,again...」という文字が浮かび上がって、今回のデモムービーは終了。
ちなみに、『first tale.』のOPでは一瞬だけこんなカットが出てきます。

「みき」ですね、間違いなく。
でも、『first tale.』に出てくるのはこの子だけではありません。

とりあえずこの問題はこれくらいで……。


3.“Two,Only Two”
『ef』のシナリオにおける特徴である「全てが対になっている」という点は、前作のOPと比較した場合にも同じことが言えます。
・ミズキ出すぎ
群像劇・恋愛劇としての性格を前面に押し出していた前作と比較して、今回は第4章の主人公である羽山ミズキを中心とした「ひとつの物語」のOPという印象をつよく受けます。第3章の主人公である麻生蓮冶と新藤千尋が全く出てこないこと(これはおそらく、3章終了後にムービーが流れるためだと思われる)、さらに第4章のもうひとりの主人公、久瀬修一がミズキと殆ど絡まないこと、この辺は特に前作と対照的ですね。
・舞い上がる紙飛行機と、階段を下りる優子
前作は優子が飛ばした紙飛行機が人々の物語を見つめ、そして空へと舞い上がり、拡散、散らばっていくという表現がなされていました。今回はその逆。地上へと降りる優子のもとにミズキは駆け寄ります。


4.その他

空気抵抗で雨粒が潰れているところがリアル。水のはね方は「はごろもフーズ」のCMを思い出します。

ここでもちゃんと潰れている。唇に雨粒が吸い込まれていくこのシーンはフェティッシュな魅力に溢れていて、個人的にはベストのシーン。

ちゃんと地面を蹴って走っている!普通、こんな面倒くさいことをせず、足元は映さずに走らせます。京アニ版『CLANNAD』OPもそうですね。
しかし、このレベルでもなおフワフワして見えるということは、何というか、うーん。