『ef - a tale of melodies.』第2話についての註釈と雑感

思い出を捨てられない火村と、全部捨てようとする久瀬。影を背負って愛を告げる優子と、笑顔で告げるミズキ。早くも物語の核心と「2つの物語」を貫く大きな対比構造が見えてきましたが、それらの関連性については未だ不明瞭なままとなっています。また、今回の話では冒頭から「描かれた世界」に入り込んだ「語り手の分身」による作中劇が行われ、同じように作中劇が重要な要素となった麻生蓮冶・新藤千尋の物語(つまりアニメ第1期)との関連も匂わせていることも注目に値するでしょう。
物語はまだ世界観を広げている真っ最中。本格的な議論はしばらく先送りにして、今回の記事でも場面ごとの註釈を中心に、画面に現れているものについて語ることに徹したいと思います。
 
この第2話では冒頭からいきなり3人の語り手が登場します。ひとりはモノローグの火村(青年)、次はキャンパスに鉛筆を走らせ背景を描く火村(子ども)、最後に画面の中で優子と会話をする火村(子ども)。このように「語るもの/語られるもの」「現在/過去」が絡み合った非常に複雑なシーンとなっているわけです。これを僕なりに整理すると、語る主体としての火村(青年)を火村(子ども)が絵画として対象化し、描く主体としての火村(子ども)を画面内に配置することで二重に対象化している、ということになるでしょう。
こうして「物語を語る自己」を対象化することにより、物語とそれを語る自己との間にわずかな空白が生まれます。そして、その空白を埋めるための想像力が、物語の成立そのものを「もうひとつの物語」として独立させるという構造が存在しているのです。今回の場合、火村が回想を行い、しかもそれが絵画の形式によって行われたという2つの事実にまつわる物語性が強調されています。
OPを挟んで火村・優子編が続きますが、興味深い点としては、第1話から第2話の間に省略された出来事があるとあからさまに語っている、ということが挙げられるでしょう。ふたりが屋上に上がる場面では、火村が「優子、おまえ天文部は廃部になったって言わなかったか?」と言ってしまう。もちろん優子が天文部だった話なんて一度もされていません。これも魅力的な空白ではありますが、さすがに不自然か。
一連のシークエンスでは極端に歪んだ俯瞰とクローズアップの往復運動が繰り返されますが、最後に遮蔽物を介した「縦の構図」から火村・優子それぞれの意思表明へ、という流れはなかなか綺麗。「縦の構図」は僕が以前書いたように「秘密を覗き見ることの象徴」であると同時に、歪んだ構図で曖昧になった2人の位置関係を整理するために用いられているのではないかと思います。

Bパートの火村・優子編は冒頭の続き、つまり子どもの頃の火村と優子の姿が描かれます。ここでは赤色の持つ特権的な地位に注目してみましょう。モノクロの画面で赤く光る優子の瞳、夕焼けに照らされて本来の色を取り戻す世界。それは冒頭で描写された火災の記憶と無関係ではないでしょう。火村は思い出の象徴である紙飛行機を飛ばすことで赤とモノクロの世界から逃れようとします。しかし、優子と再会したことにより、その世界に再び引き込まれてしまったのです。

後ろで飛んでいるのは本物の飛行機ですが、これが火村の飛ばした紙飛行機と同じ意味を持ったものであることは言うまでもありません。
それに続く優子の告白シーンでは、先述した火村の意思表明とは対照的に顔を映さず、影によって語らせるという「らしくない」演出がされています。意外な演出の多い『ef』ですが、本当に素直な感情はストレートに表現するんですよね。このあとミズキが久瀬に告白するのですが、それとは全く対照的。さて……。


久瀬・ミズキ編についても簡単に触れておきましょう。Aパート、蓮治のぶっきらぼうな態度にミズキが怒る描写は、少し前に流行った「脳内メーカー」を連想させるというのは、比較的どうでもいい話。

蓮治もそのうち活躍するでしょうから、気長に待ちましょう。ここでは彼の線の細さ、いかにも弱そうな体つきだけ憶えておけば十分。どこか殺伐とした火村・優子編とは違い、こちらの話はユーモラスだったりロマンチックだったりで、見ていて幸せな気分になります。もちろん破局のカウントダウンは始まっているのですが……。
ところで久瀬修一という人物についてですが、原作において彼は夢の中で

「過程のために死ねる生命。人間が高等と言われる由縁。許容の思考」

という独白を行っています。「過程のために死ねる生命」というはある種の矛盾ですが、矛盾を孕んでいることが人間らしさなのだと彼は言います。矛盾の積極的な肯定ですね。アニメ版の久瀬が夢の中で分裂しているのも、それを踏まえてのことでしょう。

善と悪、明と暗、真と偽。そういった矛盾する要素を矛盾として受け入れた上で積極的な価値を与えること。『ef』原作のテーマを簡単に言えばそういうことなんだろうと思うのですが、アニメ版がそれをどう咀嚼し表現するのか、楽しみに待つとしましょう。
それよりも何よりも、早く新藤千尋の出番が来ないかなー、と待ち焦がれています。