半分の月がのぼる空

そのとき、空には半分の月が輝いていた。満月のように明るくはないし、世界は闇に溶けているけど、でも確実に今を照らして輝いていた。

ファンタジィなし、学園生活なしの、ボーイ・ミーツ・ガールストーリィ。少年が出会った少女は心臓に病気を抱えていました。少年は未来を見つめ、少女は終わりを見つめる。いつか終わりが来る日常。それでも未来を彼女のために捧げることができるのか。病院を舞台に展開される、ライトノベル原作としては異色の恋愛物語です。

テレビドラマではよくある難病物なわけですが、予定調和的なハッピーエンドに逃げなかった点と、実在の文学作品の話を挟みこんで雰囲気を盛り上げた点は評価できると思います。
とまあ、偉そうな話はさておき、これは秀作ですね。最近のラブラブコメコメなだけのアニメ作品に物足りなさを感じている人には是非見てもらいたい。しっかりラブコメをやりつつ、絶妙な余韻を残す終わり方をしています。「これ以外ない」というところに着地した感じ。欠点のない、優等生的な作品です。
その一方で物足りなさを感じたのも事実。使い古されたテーマだけに、何かひとつ実験的な要素が欲しかったかなぁ、と。病院と小説の組み合わせなんてサナトリウム文学そのままじゃないですか。そういうのが嫌いってわけではありませんが。
結局のところ、作り手の世界が狭すぎるという感じがします。確かに登場人物の感性は上手く描かれているのですが、そういう「普通の感覚」を当たり前に受け入れるだけじゃなくて、客観視してメタ化するくらいの大きな視点が欲しかった。その点ではラブラブコメコメと同列の作品かもしれません。
色々ケチもつけましたが、ファンタジィで学園コメディの作品に食傷気味の人にはオススメです。砂漠のオアシス、みたいな作品かもしれません。