『“文学少女”と死にたがりの道化』−「期待通り」

久々にライトノベルを読みました。最初の辺りで

「失礼しまぁぁぁす!きゃうん!」
ドアが開くと同時に、どさっという音がして、誰かが前のめりに転げ込んできた。
床にかえるみたいに倒れている女の子は、制服のスカートがめくれ、くまのパンツがもろ見えだ。
今年小学校に入学した妹が同じようなパンツを持ってたな、なんてことを考えていたら、「はぅ〜」とか「うにゅ〜」とかうめきながら体を起こした。

なんて記述が出てきたときには「ライトノベルかっこわらい」と思いましたが、まず期待通りの展開であったと言えるでしょう。
そう。本当に期待通り。
この物語では、いったん事件が解決したと思わせて、実はその裏側に真相があった、というミステリィではしばしば見られる仕掛けが使われています。ただ、最初に提示される「真相」があまりにも説得力に欠けるものであるため、そこでひと段落ついたという感じは全く受けず、むしろ「これで終わりだったら壁本だな」と思いました。その後で「本当の真相」が提示されても、驚くというよりは安心するという方が実感に近かったですね。
あと、この手の仕掛けに関する根本的な問題点として、残りのページ数をチェックすればその仕掛けにみんな気づいてしまうということがあるわけですが……。ま、そんなメタメタな話はどうでもよろしい。


文学少女」というモチーフは悪くありません。個人的には『R.O.D』、特にテレビ版に出てくるミシェールさんを連想しました。終盤で太宰治の著作を片っ端から挙げてその面白さを語るシーンは、いかにも「本が好き!」という感じで非常によろしい。薀蓄のレベルは大したことないですけどね。
しかし、太宰の『人間失格』を枕にして、他人の感情が理解できず「仮面を被って」生活することの苦悩を描こうとする試みは、お世辞にも上手くいったとは言えません。だって、仮面を被って生活することなんて、言ってしまえば当たり前のことじゃないですか。例えば僕も、この『文学少女』を実家でおおっぴらに読むのに抵抗を感じたので、岩波文庫ローマ皇帝伝』のカバーで偽装して読んでいましたよ。という冗談はともかく。それを当たり前だと思わせないところに太宰のすごさがある、と僕は思います。
あと、文章が平易で読みやすいのは結構なんですが、宝石箱に仕舞っておきたいと思わせるようなワンフレーズが欲しかったですね。文学少女も小説ばかり読んでないで、たまには詩を読みましょう。


本筋とは関係ありませんが、作中で何度か出てきた「三題噺」に興味を引かれました。

「三題噺って知ってる?寄席で、お客様が出した三つのお題をひとつの落語にまとめて、即席で話すことよ。これからわたしが三つ単語を言うから、それを使って詩でもエッセイでも童話でもなんでもいいから、ひとつ書いてみて」

この話が出てくるたびに、主人公と一緒に自分も考え出してしまい、なかなかページが進みません。

「今日のお題は“ホチキス”と“遊園地”と“ラムしゃぶ(ラム肉のしゃぶしゃぶ)”でぇす」

僕の場合。
遊園地で彼女に振られた主人公は、心の隙間を悪の秘密組織「豚のしっぽ団」につけこまれ、遊園地の地下にある基地へと連れて行かれる。「最近は正義のヒーローがインフレ気味でねぇ。悪の組織も資金繰りが厳しいんだ」と戦闘員は語る。そこでは軍資金獲得のためホチキス作りが行われていた。ラムの骨を加工した最高級ホチキスは遊園地のお土産に大人気らしい。ホチキス作りに従事する主人公。余ったラム肉で正義のヒーローと悪の大総統が一緒にしゃぶしゃぶをしている。これが真実だったのか。どうりで最近の戦隊ものは手ぬるいと思ったんだ――。
これで2000字くらいは書けそうだな、と思う一方、書いてどうするという気も。