『星の海のアムリ』に関する雑感

勇者王ガオガイガー』『ナースウィッチ小麦ちゃん』などで有名な米たにヨシトモ監督最新作。壮大な設定を全3巻のOVAに凝縮した超速展開と、全編3DCGで作成されたド派手な映像は非常に「新しい」。

星の海のアムリ 1 [DVD]

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ハードSFの設定と美少女キャラクタの融合、それと、とにかく映像で魅せることを主眼とした構成などは実に米たに監督らしいなという感じですが、それにしても今回はキャラクタの描写が冴えています。近づくものを何でも弾いてしまう特殊なアレルギィ体質の主人公・華凶院アムリの境遇を、セリフを全く使わずに描写し、かつ視聴者の感情移入を促す前半のシーンは特に秀逸。稚拙な文字で飾り気のない文章で、だからこそ真実味を感じさせるアムリの絵日記、そして淡々と描写される幼い頃のアムリの受難。このような客観的表現に対するスパイスとして、アムリの主観(彼女を笑う顔のない群衆)が挿入されます。これら一連のシーンによって、終盤のアムリの活躍で得られるカタルシスはずっと大きなものとなっています。
物語全体の構造は非常にシンプル。アムリの内面的な問題を「謎の外敵」という形で表現し、その打倒によってアムリの成長を描く、というやり方ですね。僕たちがよく知っている昔話では貧困や差別、流行病といった共同体内部の問題を「鬼」や「悪魔」といった外敵として表現するものが多くありますが、この作品でもアムリを取り巻く環境の隠喩として敵が描かれているわけです。それがまた非常にわかりやすい形で描かれているからこそ、僕たちは敵の正体が何であるのか、どのような存在であるのかということを深く考えずに済ませられるのでしょう。

3DCGをフル活用したアクションシーンに関しては、ちょっと言葉では説明できない感じです。第1巻のタイトル「夜空に花の咲くごとく」というのは実に上手いタイトルで、アムリが敵の攻撃を弾くたび光の奔流が宇宙空間に広がっていく姿は最高に綺麗。アマゾンのカスタマーレビューで「映像作品の域を出ていない」と書いている人がいましたが、アニメの持つ、映像作品としての本来的な楽しさを感じさせてくれたことを評価すべきでしょう。
それと、デフォルメされたキャラクタデザインに似合わず、日常的な動きが丁寧に描かれていることも良かったと思います。全編3DCGのアニメといえば、僕は『アップルシード』(あと映画版FF)を思い出すのですが、ああいったリアル志向のデザインを突き詰めた先に存在する「不気味の谷」を回避する方法として、『アムリ』のようなデフォルメ化は非常に賢明なやり方であると言えるでしょう。『SDガンダムフォース』なんて作品もあることですし、今後は子供向けの作品を中心に3DCGが普及していくのではないかと想像しています。
もうひとつ、従来の3DCGアニメの欠点として挙げられていた「表情の硬さ」が、この作品では全く感じられません。宇宙を漂っているアムリの慌てた表情も面白いですが、特にヒロインのアムリがキスをするシーンは、ちょっと驚いた感じの表情がすごく良い。ここは30分という限られた時間の中で、「何でも弾く」アムリが誰かと繋がることが出来たという例外を描きだし、彼女たちの関係を特別なものに見せるための重要なシーンですが、アクションの派手さは言うまでもなくこのようなドラマ的な部分もきっちり出来ている。
設定の複雑さに比して説明描写が非常に少ないことから「わからない」という声の多い作品ではありますが、そういう方はぜひ公式サイトで解説を読み、改めて見直してみてほしいと思います。コミック版があり、公式サイトがあり、アニメ版がある。アニメだけで完結していることが重要だ、というのもひとつの考え方ですが、説明セリフが多くなるのもつまらないですからね。