『電脳コイル』で久々に「子ども向けアニメ」を見たと感じた

電脳コイル|磯光雄監督作品
『電脳コイル』の第1話〜第5話までが一挙放送決定! - ファミ通.com
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電脳コイル 第1巻 通常版 [DVD]

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電脳コイル』なんですけど、最初は正直見るべきかどうか悩んでいました。しかし4話5話を見て確信しましたね、「これは凄いな」と。上のリンクにもある通り今週末に5話まで再放送されるそうなので、今回は未見の方に向けて『電脳コイル』の面白さを伝えてみようかと思います。
さて、タイトルではあえて「子ども向け」と形容してみましたが、馬鹿にしているわけではもちろんありません。視覚・聴覚に訴える映像作品が本来持っている力、いくらでも意味を汲み取れるシナリオの奥深さを最大限に評価してのことなので、大人が見ても当然面白いわけです。というか、大人が見てつまらないような作品を子どもが喜ぶわけないじゃん、と僕は思います。
電脳コイル』の舞台は202X年、由緒ある神社仏閣を有する地方都市でありながら、最新の電脳インフラを擁する大黒市(どこがモデルなんだろう……)。この時代の子どもはみんな「電脳メガネ」を持っていて、それをかけると、いつでもどこでもネットワークに接続することが出来るようになっています。この辺は『攻殻機動隊』っぽい。ただ「電脳メガネ」はメガネなのに何故か触覚にも影響を与えてしまうんですね*1。つまり「電脳メガネ」をかけることによって見えるようになる仮想空間に直接手を触れることが出来るのです。
こうなるともう仮想と現実の区別なんてつきません。「高度に発達した科学は魔法と区別がつかない」と言われますが、まさにそういう感じ。
仮想と現実が地続きになっている、という幻想的な世界観が『電脳コイル』の魅力のひとつであることは間違いありませんが、ただそれだけではなくて、仮想空間でしか通用しない「お約束」を必要としないため凄くわかりやすいという長所があります。ファイアーウォールはブロック塀として、ウイルスはレーザービームやミサイルとして、ワクチンはお札として、とにかく何でも身近なものに置き換えてしまえます。

こういう表現がご都合主義的な発想かと言えばそうでもなくて、例えば郵便局のATMがそうであるように、機械に強くない人(言い換えれば機械との「お約束」を知らない人)も利用するとわかっているユーザインタフェースでは音声でアナウンスしたりアニメーションを組み合わせたりと、少しでも「現実の人間」を相手にしているような感覚を与えることに努力が払われています。『電脳コイル』のように子どもから老人までネットワークに繋がっている世界ならむしろリアリティのある描写である、と言えるのではないでしょうか。
ただ、ユーザインタフェースの発達によって仕組みを知らずに使ってるユーザを増やす一方で、そうした人たちにとっては技術がブラックボックス化してしまうわけです。みんな冷蔵庫の仕組みを知らずに使っているのと似たようなものかと。
電脳コイル』においてもそれは同じで、例えば「メタバグ」という何故そこに存在するのかさえわからないようなものが出てきても、それに対してほとんど疑問を感じることなく使われています。おそらく今後は、そのブラックボックス化された技術の探求がストーリィの核になるのではないかな、と。それにしても無駄のない話。
さて、長々と設定の話をしてきましたが、この作品の魅力はもちろんそれだけではありません。等身大の小学生として描かれつつも決してその枠に収まりきらない、生き生きとしたキャラクタたちの姿が描かれています。
例えば主人公のひとり(たぶん)天沢勇子。

クラスメイトにつっけんどんな態度をとって敵を増やす子どもっぽいところを見せたかと思えば、上の写真のように暗黒街の大物みたいなポーズを決めたりもする、実に魅力的なキャラクタです。その他のキャラクタも賢そうに見えて鈍感だったり、実力があるのにそれを隠していたりと意外性は十分。
他にも魅力はたくさんあるのですが、何より重要なのはそれらの魅力が直感的に理解できること、そして奥深いところで調和し物語に広がりを与えていることだと思います。その2点を評価して僕は『電脳コイル』を「子ども向けアニメの傑作である」と考えているわけです。


追記:ブクマで指摘されましたが「「電脳メガネ」はメガネなのに何故か触覚にも影響を与えてしまう」というのはめがっさ不正確な記述でした。とりあえず触れることは出来るっぽい。けれど「触れた」という感覚はないらしい、というのが現在与えられている情報から推測できる最も正確な記述でしょう。適当なこと書いて申し訳ありません。ご指摘いただいたid:gohshiさん、id:sea_sideさん、ありがとうございました。

*1:必ず追記を読んでください