出久根達郎『雑誌倶楽部』

私は雑誌が好きだ。本よりも断然雑誌派である。飽きっぽい私にとって、雑誌はいろいろ書いてあるところが良い。ひとつの記事を読んでいて、おもしろくなければ次の記事、次の記事、と飛ばし読みすることができる。雑誌はすぐ手に入らなくなってしまうが、それもまた雑誌の良さだ。雑誌のなかでも特に古雑誌が好きだ。10年後、100年後の人々にも読まれることなど雑誌は想定しない。そんな想定をあえて無視し、古雑誌を探して買う。後世に残すつもりがないからこそ、雑誌が書かれた当時の「今」がそこに詰め込まれている。
……などと普段から考えている私にとって、本書『雑誌倶楽部』は中々興味深い内容でした。

雑誌倶楽部

雑誌倶楽部

本書の内容は大正から昭和50年ごろまでの各種雑誌を(年代順でも、テーマ別でもない、それこそ「雑誌」的な詰め合わせ方で)紹介していくもの。『文芸春秋』『キング』『宝島』などのメジャーどころから、『新青年』『大衆文芸』などの文芸誌、『旅』『家の光』などPR雑誌、『実話雑誌』『犯罪科学』『丸』などの実録もの、『主婦之友』『婦人公論』などの女性誌、と幅広く取り上げられています。雑誌の成り立ち、編集者の来歴などを詳細に記述するの「ではなく」、雑誌に掲載された広告、写真、見出しのつけ方といった細かな部分に関心が向けられており、豆知識的な話が多いです。この本自体が雑誌っぽいというか。
戦後の『実話時代』なる雑誌を取り上げた部分では、著名な切腹(の歴史に関する)研究者である中康弘通氏が『実話時代』の読者欄で資料の提供を呼びかけていたことが書かれています。90年代ごろまでは「在野の歴史家」とでも言うべき人が多くいたのですが、そうした人々はこうした雑誌を利用して独自のネットワークを築き、資料を集めいたのではないか。そんなことを想像させられました。
あと興味深い部分をいくつか。

お手伝いさんの給料がどれほどであったか、明記された資料がなかなか見つからなくて、往生したことがあったが〔中略〕何のことはない、『婦人之友』のバックナンバーに当たればよかったのだ。実に正直な数字が、並んでいる。これで見ると、昔はお手伝いさんが習う裁縫の月謝は、主人持ちであったようだ。p105

積ん読」という言葉が、徳川時代に作られた洒落だ、と教えられたのが唯一の収穫である。〔中略〕教えてくれたのは、歴史学者尾佐竹猛、ヨタとは思われぬ。何しろこの人、本職が現代の最高裁判所に当たる大審院の判事なのである。p213-214

広告に関しては、昭和12年の『新青年』に掲載された「生殖器短小」「機能障害」を「真空吸引力と水治法」によって改善させる機械の広告がおもしろかったです。よく考えると、これって昔流行った(?)女性の胸を大きくする機械と同じ仕組みではないでしょうか。定期的に同じようなことを考える人が出てくるのか、それとも単純な応用なのか……。寡聞にして効果があったという話は聞かない。