ぱれっと『晴れときどきお天気雨』についての雑感

晴れときどきお天気雨

晴れときどきお天気雨

――この街に“神様”がやって来る。
http://www.clearrave.co.jp/product/hareten/index.html

 人の願いを叶える不思議な力をもった「神様」が普通に存在する世界。主人公たちの住む街にやってきた神様は新米で頼りがいのないドジっ娘でした。しかし、ひたむきな彼女の姿は人々の眠っていた願い・抑えられていた願いを呼び起こし、うつろいゆく日常を少しずつ変えていく。本作『晴れときどきお天気雨』は、そんな「願い」と「神様」をめぐるお話です。タイトルどおり内容は至ってハートフル。ときどき修羅場ったりしますが、最後はハッピーエンドです。
 私にとってシナリオNYAON、原画くすくす(そして主題歌WHITE-LIPS)の組み合わせは「とりあえず積んでおいて、他にやるゲームがないときは優先的に崩す」という位置づけ。大傑作は期待できない代わりに、綺麗にまとまって読後感の良い作品を継続的に出してくれる人たちという感じですね。これまで『Dear my friend』『もしも明日が晴れならば』『さくらシュトラッセ』をプレイしてきましたが、どれも平凡といえば平凡なストーリィのなかにひとひねりを加えていて、新作が出ればたぶん買うだろう、というくらいには気に入っています。
 本作の主人公は恋愛事に鈍感で両親は海外出張中で妹はお兄ちゃん大好きで、というテンプレートに乗っかりつつ、目標を見つけるとそれに向けて情熱的に取り組む活動的な人間として描かれており、私としては好感を持ちました。車椅子生活をおくる妹を学校に受け入れるため、主人公とその親友は生徒会に入って立場を固め、理事長と交渉して校舎のバリアフリー化を進める……というエピソードは特に印象的で、あまりの真っ当さに「これはモテるよなぁ」と。ものの道理をきちんと描いている、とでも言いましょうか。車椅子生活を送る妹がいたら当然必要になる日常生活上のあれこれはきちんと描く、その妹に手を出したら周囲の人がどう思うかも逃げずに描く。そういうある種の真面目さが発揮されていたように思います。その割には、生徒会活動であれ、車椅子生活であれ、妖怪退治であれ、描写自体は簡潔に過ぎているような気もしますが。
 『さくらシュトラッセ』の主人公にも似たような印象を受けましたが(料理人としてのプロ意識の強さ)、『晴れ天』の方はもう少し等身大というか、愚直な感じ。それが鼻につく、と思う人もいるでしょうけど。
 しかし、これも毎回のことではありますが、個別ルートに突入する終盤よりも共通ルートの序〜中盤の方が面白いんですよねえ。特に主要登場人物が勢ぞろいして、個別ルートのフラグを立てつつ、日常的なトラブルをめぐって話を展開する中盤が良いです(今回は序盤がやや冴えないかもしれない)。個別ルートの方はやや型にはまった感があるのですが(「恋愛と友情」「子供のころに抱えた負い目」「世間の目」「思いをはっきり伝えないことによるすれ違い」という定番の展開)、それに比べると共通ルートは自由な発想で描かれていると感じます。もっとも、恋人関係にいったん亀裂を与えたのちに修復するという展開から外れることができない以上、個別ルートの自由度が限定されるのはいかんともしがたいのですが……。
 あと、本作の分岐システムは少し変わっていて、1本道のルートの途中途中に個別ルートに入る分岐が用意されており、それを選択すれば個別ルート、選択しなければ共通ルートが続くという形式になっています(HERMIT『世界でいちばんNG(だめ)な恋』を思い出しました)。要するにメインヒロインのルートに入るにはそれ以外の全員のフラグを折らなければならない、というわけです。「相手を振る」というよりは「問題に踏み込まないことを選択する」という方が適切で、個別ルートのフラグが折られたあとも不完全燃焼な関係が続いていくこともある。こうした構造上の特性を活かした、もっと複雑でドロドロした話にもできたと思うのですが、結局は定番の話に落ち着いている。一番最初にフラグが折られる絢音が、その後の話でもっと絡んでくると面白かったのですが(キャラクタとしても一番魅力的ですし)。
 あと、本作はある種の超能力モノというか、割と何でもできる異能をもった「神様」を物語の中心に置いています。それが超能力者ではなく「神様」と呼ばれるのは「神様は人の願いを叶えてくれる。では神様の願いは誰が叶えるのか」というテーマを描くためだと思うのですが、あまりこのテーマが深められたという感じはしません。ただ絢音編での能力と物語との絡ませ方はユニークで、「神様」云々の話を置いておけばかなり完成度の高い話だったと思います。やっぱり絢音が話の中心になる中盤が一番面白いと思うんですよねぇ……。破壊力のある可愛さ、というか。
 簡潔な文章、テンポの良い展開、振幅のある人間描写など、良作としての条件は十分に満たしていると思います。「主人公の親友」ポジションであるところの虎太郎くんをめぐる話には意表を突かれました。恋愛を扱っても一対一の関係に閉じこもらない、登場人物全員が関わってくる。ストーリーテラーと呼ぶべき手腕であると言えるでしょう。これでもう少し奥行きのある人間像というか、単純な理解を拒むような強度を持った人間を描ければなお良いのですが。
なお、OP・ED・挿入歌はすべてwhite-lips。名曲揃いですが、とくにEDテーマの「ひまわり」はwhite-lipsの良さが出ています。