『我が家のお稲荷さま。』第23話「お稲荷さま。だいえっとする」についての雑感

鹿野優以の演じる佐倉がひとりで喋り倒すという、いつもの「お稲荷さま。」だったので全然気づかなかったのですが、噂によると来週で最終回だそうですよ。続けば続くだけ見てしまうであろう、実は毎週楽しみにしている作品だったので残念。『true tears』を連想させるOPから本編、前期エンディングに渡って必要以上にカットを割らないスマートな演出方針が貫かれており、地味ですが良い作品だと思います。今回はその辺の話を少し。

今回はヒロインのひとり、佐倉美咲がダイエットをする話。次回予告とタイトルが当てにならないのはいつものことなので、「ダイエットをするのはお稲荷さまじゃないの?」とか言っても仕方ない。さて、最初のシーンでは佐倉が体重計に乗りながら悲鳴を上げている場面が描写されますが、肝心の数字は決して映さない慎ましさと、「ふにゃー!」という(何時代のアニメだ)と思わずにはいられない叫び声が同居しているという矛盾が面白い。
タイトルを挟み、佐倉の独白、佐倉と昇たちとの会話シーンへ移ります。独白や会話に合わせてコロコロと変化する佐倉の百面相。この作品の最も面白い部分のひとつです。
一般に他人の顔を観察の対象として眺めることが出来るのは、画家がモデルをスケッチしたり、あるいはマジックミラー越しに覗いたりという風に、視線が一方通行の状況に限られています。そう考えると「顔芸」というのは極めてアニメ的な題材であると言えるでしょう。また、本人でさえも知覚していない顔の変化(自分の顔は見えないから)を覗かせることにより、人格とその表象である顔の間に何の隙間もない「素顔」が描かれたという印象を与えることも出来ます。
それから話が転がっていくわけですが、今回はバストショットやロングショット・ロングテイクの多用、パン、横から人物が入ってくる「カットを割り過ぎない」傾向が強く見られました。かといって『紅』ほど厳密にやっているわけでもなく、もうちょっと緩やかな感じ。ただ、話の終盤に昇が佐倉をケーキ屋さんに誘うシーンではかなりホットな切り返しが見られます。



基本的にはホームドラマを見るような視点にカメラを置きながら、恋する少女の熱さを単純な切り返しで表現する。全般的に地味な話ですが、意外と緩急がついているように思われます。
あと、佐倉が脱衣所にいるところを、昇がうっかりドアを開けて「きゃー」という古典的なシーンがありました。そこでお互いに気まずくなり上手く話せなくなるという展開は、そりゃそうだろうな、と。親密性によって作られる「擬似家族」は古典的なモチーフですが、「家族」という概念自体が未婚の性交渉を排除する傾向がある以上、恋人たちにとって必ずしも素晴らしいとは言えません。エロゲだと『腐り姫』から学べるものが多いかな。
今回の話は中盤以降、視点が佐倉で固定されています。思考の流れを追いかけていく臨場感があって面白かったのですが、視点の変化によるある種の超越性を排したことにより、時間や空間のジャンプがぎこちなく感じられるという問題もあるなと思いました。