『会議は踊る』に見るシネ・オペレッタの名演出

最近はサブカル批評サイトとしての方向性がわけわかめな当方ですが、そんなことは気にせず今日も映画を紹介しましょう。

會議は踊る [DVD]

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「会議は踊る、されど進まず」で有名なウィーン会議。ナポレオン敗北後のヨーロッパ秩序について話し合うため、各国から国王クラスの大物がウィーンに集まってきます。そんな大物たちに花束を投げつける女がひとり。手袋屋のクリステルです。目的はもちろん手袋屋のPR。
そんな迷惑行為を繰り返すクリステルでしたが、ロシア皇帝にも同じように花束を投げつけたところ爆弾と勘違いされ、たちまち取り押さえられてしまいます。哀れクリステル!とは誰も思っていないでしょうが、彼女に与えられた判決は鞭打ちの刑。そんな彼女を救ったのは当のロシア皇帝でした。
勘違いから始まる恋がある。ロシア皇帝とクリステルは急速にその距離を縮めていきます。
さてさて、クリステルはロシア皇帝に気に入られた後、彼が用意した別荘に移ることになりました。迎えの馬車がやって来て、クリステルはそれに乗り込む。その馬車が出発してから別荘に到着するまでの4分30秒間が『会議は踊る』最大の見せ場です。この長いシーンの間、画面の切り替えはわずか7回。しかもつなぎ方が自然で、ほとんどワンショットで撮影されているようにも見える、映画史上稀に見るほど「ひっぱった」シーンでした。次々と変わっていく風景をまるで舞台で見ているように映し出す。これはもう、シネ・オペレッタでしか出来ない名演出だったと思います。
そして、このとき流れる歌が「ただ一度だけ」。

この世に生まれてただ一度 きっとこれは夢 まぼろし
人の一生にただ一度 二度とかえらぬ美しい思い出
人の一生にただ一度 春のつぼみほころび 花ひらくとき

幸せの絶頂にあるクリステルを象徴するような歌……とこのときは感じることでしょう。ところが映画のラストシーンにおいてこの歌はもう一度使われることになります。前回とは正反対で、失意の底に沈むクリステルと共に。
流れる歌は同じでも、その状況は何もかも違う。このような「反復と差異」がこの映画においては頻繁に登場します。例えばクリステルと彼女に恋する男ペペの会話。ロシア皇帝に花束を投げようとするクリステルにペペは「受け取らない」クリステル「受け取る」ペペ「受け取らない」クリステル「受け取らない」……。
時間が流れ、ロシア皇帝の別荘に住むクリステルの元をペペが訪れます。クリステル「きっと皇帝はここにお泊りになるわ」ペペ「泊まらないさ」クリステル「泊まる」ぺぺ「泊まらない」……。
何というか、いくらでも深読みできる作品ですね。笑ってしまうほどユーモラスな作品でもあり、最後の最後で「こんなのアリかよ」とビックリしてしまうほど衝撃的な作品でもある。シネ・オペレッタを代表する作品であることは間違いありません。