『戦艦ポチョムキン』―モンタージュとワンショット

日本では……というより、一般にはあまり有名ではない映画かもしれませんね、『戦艦ポチョムキン』って。ただ、先日『市民ケーン』を取り上げた際に紹介した『サイト・アンド・サウンド』誌の投票でも常に上位に食い込む、サイレント時代を代表する作品のひとつであることには疑いようもありません。「モンタージュ手法」を確立した映画としても有名なので、今回はその辺の話も。

戦艦ポチョムキン [DVD]

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この映画で描かれているのは「戦艦ポチョムキンの反乱」という実際にあった事件。待遇に不満をもった水兵たちが反乱を起こす話なんですけど、スターリン時代のソ連で作られた映画だけに色々と脚色が加えられています。史実ではほとんどの水兵が処刑されたりシベリアに送られたりしたのですが、映画ではみんなが共産主義の旗の下に集結してハッピッピ、とか。
はっきり言えばプロパガンダ映画なんですけど、いや、これは凄い映画ですよ。ストーリィが簡潔でわかりやすいだけでなく、複数のショットを組み合わせて意味を生み出す「モンタージュ手法」が炸裂しています。例えば共産主義思想をアジっているシーン。最初は普通に演者がアジっている姿が映されるのですが、内容が「皆はひとりのために、ひとりは皆のために」なんて重要なところに入ると、メッセージ、群集、メッセージ、群集と交互に表示され、メッセージと群集の存在が強く関係付けられます。「このメッセージは群集の声である」みたいに。
もうひとつ、「オデッサの階段」というシーンに触れないわけにはいかないでしょう。オデッサの街に兵隊がやって来て、市民を虐殺し始める。階段を転がり落ち、踏みつけられる子供の死体。驚愕する女の顔。死体。女の顔。死体。女の顔。余計な台詞なしで、合理的かつ簡潔に状況を物語ってくれます。モンタージュという技法が生まれた原因には、もしかしたら、字幕しかなく、多くの台詞を詰め込むことができないサイレントという環境が関係していたのかもしれませんね。
ただ、あまりモンタージュの話に偏ってもこの作品の力を捉えそこなうのではないかとも思うわけで。ワンショットの意外性、魅力にも注目したいところです。絶叫する女の顔の物凄さ、ローアングルどころか格子越しに足の裏まで移すカメラワークの意外性。
そして何より面白いのは、この映画の中では作為性が全然隠されていないことですね。このまま映画の教科書になりそうなくらい技法がわかりやすく使われている。製作当時はまだ30代、若きセルゲイ・エイゼンシュテイン監督の野心が見て取れるのではないでしょうか。