『桃華月憚』というデコレーションの魔法

「以前、どこかで会ったことありますか?」
「さあ……」
「ありますよね?」
「さあって言っただろ。おかしいのかお前」
「私、決めてました!もう一度会えたら……もう一度会えたら、絶対に躊躇わないって」
「何を?」
「愛を、成就させることを」

ヤミと帽子と本の旅人』のスタッフによって作られた学園異能物語。時系列はどうなっているの、とか、そもそもこいつら誰なんだよ、という根本的な疑問を置き去りにしたまま進んでいく、今期最もわかりづらい作品です。最終話まで見ても理解できないかもしれないですね、これ。美しい風景、理解不能な設定というわけで環境ビデオのように見ている方も多いのではないでしょうか。
連作短編に近い形式を取っているようで、独立した(ように見える)エピソードを繰り返し、1話の中で見かけ上は完結している。確かに設定などは全く理解できない(させない)のですが、『ひぐらし』などのように「さあこれは何でかな?」というあからさまな問いかけを行ってこないという点で、推理物とも少しずれた作品だと言えるでしょう。
しかし、設定の難解さを度外視すれば、割とオーソドックスな恋愛物語であると僕は思います。パンをくわえながら立っている少女とか、先輩大好きーな後輩なんてのが出てくるわけで、見ようによっては実にベタベタなキャラクタ造形ではありませんか。そんな固い芯を中心に派手派手しいデコレーションを施したのが『桃華月憚』という作品ではないかな、と。
映像の美麗さ、設定の不可解さはもちろん魅力的ですが、それが作品の本質であるとは思いません。作品の面白さを支えているのはまた別の部分、キャラクタ造形であったり、細やかな心情表現であったりと、『桃華月憚』においてはデータの中に埋もれてしまいそうな場所に存在するのだと僕は思います。
最後にOP曲を紹介。喜多村英梨『ゆめおぼろ』

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