デイヴィッド・リンチ『エレファント・マン』

エレファント・マン [DVD]

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リンチ監督はあと『イレイザーヘッド』くらいしか観ていないのですが、人間の生々しさというか、「人間も一皮むけば物を食べてドロドロに消化する機械」と言おうとしているような、そういう作風なのかなと思いました。
デイヴィッド・リンチ『イレイザーヘッド』 - tukinohaのアニメじゃない日記
なので本作『エレファント・マン』もそういう先入観の上で見たのですが、ちょっと解釈が難しいですね。私の見方だと「イレイザーヘッドの監督らしく、さすが意地の悪い話だ」ということになるでしょうし、別の見方をすると「リンチにしてはヌルい話だ」となる。むろん私は私の見方が正しいと思っていますが。


エレファント・マン」は19世紀に実在した人物で、極端に変形し膨れ上がった体形からそのように呼ばれていました。本名はジョゼフ・メリック(映画ではジョン・メリック)。見世物小屋で働かされていたメリックを医師のトリーブスが引き取り、周囲の偏見の目にさらされつつも徐々にメリックを受け入れる人々が増えていく……という話。
たしかに一見するとヒューマニズムに満たされた映画で、「偏見を持たずメリックを迎え入れようとする善意の人々」と「悪意をもってメリックをさらし者にする人々」とが対比されているように見えるのですが、そんな単純な話なんですかねぇ。作中でメリックは何度か「ベッドで眠る姿」を描いた絵を見ながら「私もあんな風に寝てみたい」と言うのですが(メリックはその体形のため仰向けに寝ると窒息してしまう)、そのことを気に留めた人は誰もいなかった。メリックを最初に受け入れた医師も、メリックを劇場に迎え入れた女優も。そしてメリックは当初の意思を遂げ、仰向けに寝て死んでしまう。
この映画は、ヒューマニズムの外見を装いながら、結局誰もメリックのことを理解できなかったという非常に寂しい話なのではないでしょうか。


終盤にエリックが大勢の群衆に追いかけられて逃げ回り、最後にトイレへと追い詰められて倒れこむシーンは必見。並みのホラーよりもはるかに恐ろしい場面です。