田中ロミオ『人類は衰退しました』第3巻

人類は衰退しました 3 (ガガガ文庫)

人類は衰退しました 3 (ガガガ文庫)

最新刊も既に読んでいますが、「あとがき」が結構ショックでした・・・・・・。『Rewrite』が売れるといいですね、というわけで第3巻。
今回は「妖精さんの、おさとがえり」の1話収録。発電衛星の復旧により、電気が使い放題に。しかし衛星から発せられる電磁波の影響で、妖精さんがいなくなってしまいました。そんな中、近郊の遺跡探検ご一行に加えられた「わたし」と「助手さん」。存在自体がギャグな妖精さんがいないことで、物語は必然的にハード路線に。
今巻では、妖精さんはロボットには認識できない、ということが判明します。電磁波によって「かきみだされ」てしまう。どういうことでしょう。そういえば2巻でも、森の動物たちは妖精さんのことを知らない、という話が出てきましたね。人間にしか認識できないのか、それとも、認識の中に存在しているのか・・・・・・。増えるほど力が強まる、という点からも、『最果てのイマ』に描かれている「群体」的なものを想像してしまいます。
例えば、『イマ』:人類発狂、人口の激減⇒『C†C』:発狂からの回復⇒『人退』:緩やかな衰退
というモチーフの系列も考えられるでしょう。
さて、今巻の舞台はいつもの「クスノキの里」ではなく、里から遠く離れた都市遺跡です。この都市遺跡のあり方は『神樹の館』とほぼ同じ。すなわち都市の中心に古代の遺物があり、それを取り囲むように都市が作られている。

古きものを残すため殻で覆い、そこに暮らす。
殻は一層ずつ重ねられていき、原形が完全に覆い隠されてしまってもなお増殖を続けた。
大事なものを懐に抱えたまま、人々は当たり前のように殻での暮らしを続け・・・・・・やがてすべては「生まれつきそうであったもの」となった――(250頁)

もうひとつ重要な点は、主人公にとってこの都市遺跡は迷宮そのものだったわけですが、その原因は都市が増改築をくり返して増殖した「迷走する都市計画の産物」(179頁)である、ということです。これも『神樹の館』と同一。
このことは、田中ロミオの物語世界の作り方を考える上で非常に重要であると思われます。『C†C』や『イマ』にせよ、時系列を操作することで異なる空間を繋げ、それによって迷宮を作り出しているわけですから。よく知っている、馴染み深い場所がある。そこから出ていくことで物語を動かすのではなく、むしろ、その場所が別の場所と繋がることによって、馴染み深い空間がそうでなくなってしまう。こうして、田中ロミオ的な「迷宮」と「閉塞感」が生まれてくるのではないか、と。AにBが繋がることで、Aはその意味を変化させ、ABはCに繋がることでまた変化し・・・・・・、という、自己生成的な世界観。社会学というよりは、人類学?
自己生成される都市がその中心に古代の城塞を有している、というのも面白いですね。田中ロミオ作品で描かれる世界にはだいたい「聖なる中心」があり、それはコミュニティの起源でもある。構造主義的な発想だと思うのですが(つまり、構造を作動させる最初の力を、人間が触れたり所有したりできないものに求める)、いかがか。