田中ロミオ『人類は衰退しました』第1巻

人類は衰退しました (ガガガ文庫)

人類は衰退しました (ガガガ文庫)

今後また、それなりの分量の田中ロミオ論を書く予定が出来たので、「最近のロミオ」についての見当をつけるために『人退』シリーズを読み返してみることにしました。
第1巻の前半は舞台設定の解説とキャラクタの素描が主で、その後の巻に比べればやや退屈。とはいえ、さすがに手際よく解説していきます。人類をはるかに上回る知性をもつ「妖精さん」。多少なりとも警戒感を抱いてしまうのですが、主人公の先任者が妖精さんに毎日ビフテキと酒をごちそうになって肝硬変で死んだ、というくだらない話で主人公と読者を安心させる、とか。
最近『C†C』の公式設定資料集を見て、ロミオが「私は明確なテーマを決めて書いているわけではない(大意)」と発言しているのに「へー」と思ったのですが、確かにそうかもしれない、とも思います。私はかなりベタにテーマを読み取ってしまうのですが、ttt氏の読みが『人退』を読む上で参考になるでしょう。
http://togetter.com/li/93086
危機に瀕するかたちで舞台の条件が出てくる、というのはおそらく重要。非常事態にこそ常態の本質が現れるのだ、というシュミット的な考え?そんなに外してはいないと思うのですが、最終的には意識の問題に回収されてしまうというのがいつものパターンなわけで、なんでそうなってしまうのだろう。『AURA』なんて終始「学校生活」という日常に内在する非日常としての「スクールカースト」という、構造的な問題を扱っていたはずなのに、最後の最後で自覚や意識の問題に流れてしまう。それは何故か、ということを考えてみる必要があるでしょう。たぶん主人公のキャラクタ造形の問題。
興味深く感じた点としては

「いやまったく。さあ皆さん、早く逃げないと本当に神様にされちゃいますよ」
周辺の妖精さんたちが、ビクリと身を震わせました。
「なかたさんもどうします?このままだと神様ですよ?」
「え、あ、えー……」周囲を見渡して、「かみさまやーだーーーーーっ!」
仲間のもとに駆け出しました。
神の概念は一転して悪鬼のそれとなったのです。
このあたり、人間の神話の歴史とも一致していて、なかなか民族史的には面白いかもですね。
(120-121頁)

など。ロミオの民俗学への関心の高さについては、『最果てのイマ』や『神樹の館』からも伺えます。祀ると同時に遠ざける。ロミオが好んで描く「孤高の人」のあり方とも似ているような。何にせよ、折口を読んだ方がいいのかもしれません。