スタンリー・キューブリック『シャイニング』

シャイニング 特別版 コンチネンタル・バージョン [DVD]

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S.キングの同名小説の映画化。
冬の間閉鎖されるホテルの管理を任された小説家志望のジャックと彼の妻と息子。しかしそこは、インディアンの基地だったとか、前の管理人が家族を殺して自殺したとか、いわくつきの場所でした。惨劇を記憶するホテルは彼らに語りかけ、ジャックの精神がゆっくりと狂っていく姿を描いています。
原作小説と比較すると情報量はかなり少なめ。「シャイニング」とは何なのか、何故ジャックは狂ってしまったのか。そういった物語の背景をざっくり切り落とし、視覚的なインパクトに訴えようという方針のようです。「映画」というメディアの特性を活かし尽くそうとするキューブリックらしい選択だと言えるでしょう。
例えばジャックの原稿を妻がこっそり見るシーン。紙には「All Work and No play Makes Jack A Dull Boy(仕事ばかりでジャックは頭が鈍くなる)」とだけ書かれています。他の紙にも、その他の紙にも、その他の紙にも。
もともとは普通の人間なわけです、ジャックは。ところが怪現象が頻発するホテルにおいて、彼だけがそれを何とも思わない。狂気の中での正常。それを他の視点から眺めると狂気そのものになってしまう。この、正常と狂気の境界を侵犯するような演出が実に恐ろしい。
ちなみにこの作品は、現在では一般的になったステディ・カムを初めて本格的に使用したことでも知られています。ステディ・カムというのはこういうやつのこと。ダニーがホテルの中を走り回るシーンや、ラストの迷路での追跡シーンなどで活躍しました。