アルフレッド・ヒッチコック『サイコ』

サイコ [DVD]

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この映画には2重のトリックが隠されています、と書いたらネタバレかもしれません。しかし、たとえストーリィを全部ばらされたとしても面白さが減るような映画ではないので、あえてトリックの話もしてみようかと思います。
まず1つ目のトリックは「映画のテーマを錯覚させる」ことです。
物語はアリゾナの中都市から始まります。ジャネット・リーの演じるヒロインが恋人と将来の話をしているのですが、恋人の方は態度が煮え切らない。そこでヒロインは会社の金を持ち逃げし、恋人の住む街に無理矢理押しかけようとします。
その途中で色々と現実的なハプニングが起こります。逃げる途中で会社の社長に目撃され、何故かバイクの警官が追いかけてくる。そうする内に「この後も現実的な話が続くんだろうな」と思い込んでしまうので、いざ物語の舞台となるモーテルにヒロインがたどり着いても何とも思わない。それだけに後のショックが大きかったですね。
2つ目のトリックは言うまでもなく「事件の真相をいかに隠すか」です。
映画はそもそもミステリィ的な「トリック」を表現するのには不向きなメディアではないか、と感じることがあります。カメラは何でも写してしまいますからね。しかしヒッチコックはその問題を「カメラに写さない」ことでクリアしてしまいました。音と、影と、モンタージュを利用した大胆な空間の省略。それによって無理を押し通してしまった手腕には感心するばかりです。
とはいえ、「何か仕掛けがあるだろうな」と思いながら見ていればオチは大体予想できるでしょう。それでもドキリとさせてしまう辺りがヒッチコックの映像表現の上手さなわけですが。
ひとつだけ不満を言わせてもらうなら、終盤の解説は親切すぎます。そこまで映像の上手さで魅せてくれたのに、最後だけもっともらしいセリフをぐだぐだと喋らせてしまったのはイマイチでしたね。