真下三部作として『エル・カザド』を見る

エル・カザド公式

テレビアニメ『エル・カザド』DVD 1 (初回限定盤)

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新作アニメ『エル・カザド』は『ノワール』や『.hack』シリーズで独特の世界感を表現してきた真下耕一監督の最新作。
この美少女2人を主人公にしたガンアクション作品は、キャラクターデザインに菊地洋子、音楽に梶浦由記といったお馴染みのスタッフによる『ノワール』『マドラックス』に続く3部作完結編だ。

http://eg.nttpub.co.jp/news/20070220_13.html

ということで始まった『エル・カザド』も半分を消化し、物語も大きな転換期を迎えようとしています。ハインツ・シュナイダー博士殺害の容疑で多額の懸賞金をかけられた少女エリスと、彼女を守る賞金稼ぎのナディ。偶然を装った必然で出会った2人は「ウイニャイマルカ(永遠の場所)」という言葉だけを頼りに南へと旅を続けます。
現時点までの感想をひとことで言えば「エリスかわいいよエリス」。

ところで上に「『ノワール』『マドラックス』に続く」とありますが、比べてみると共通性よりは違いの方が目立って見えますね。確かに設定には共通する部分がいくつか見られますが(大人の女性と少女の組み合わせ、マクガフィン的なキーワードの存在、秘められた過去、など)、雰囲気の明るさ、アクションシーンのストーリィ性の高さにおいて前2作とは一線を画しています。
例えば『MADLAX』においては主人公であるマドラックスの圧倒的な強さが強調されたり、あるいは負けるときも一方的な展開になる、というようなシーンが多かったわけです。下の動画のように。

それに対して『エル・カザド』は、まずナディが大して強くない。流れ弾で怪我をしたこともありますしね。そのためにゲストキャラクタが助っ人に入り劣勢を挽回、など起伏のある展開が多くなっているように感じられます。その分、映像的にはイマイチ映えないなと感じることもありますが。
複数のキャラクタが同じ場所へ向かいながらもその意図はバラバラ、という群像劇的な構成も特徴的です。特に12話は面白かった。いつも主人公たちの周りをウロウロしている子連れの男が、そのときに限って何故かいない。電話をかけたら、子どもが風邪を引いたので看病しているから動けない、と。このような「そこにいない人への視線」が描かれていることは群像劇にとって非常に重要なことです。
ついでにストーリィの話もしておくと、前2作において描かれてきたのは「罪」を清めようとする敵役と「罪」を「罪」として許そうとする主人公たちとの戦いでした。その意味では『MADLAX』最終話でヒロインがつぶやく「私は悪い女の子です」というセリフは象徴的なものだと言えるでしょう。もう少しはっきり言えば思想戦争に近かった。
それに対し、『エル・カザド』ではエリスが何らかの「罪」を負っていることが早い段階で明らかにされているので、前2作とも共通する部分は多く持っています。けれど、エリスと同じように過去の「罪」を抱えている人が出てきても「現在の生活を守るために」あっさりとそれを振り切ったりもする。前2作と比較すると価値観が多様になっていて、先が読みづらいなと感じますね。