『第三の男』−暗い名作
「イタリアはボルジア家30年の圧政の下にミケランジェロ、ダビンチやルネサンスを生んだ。スイスは500年の同胞愛と平和で何を生んだか。ハト時計だとさ」
舞台は第2次大戦後のウィーン。友人のハリーに招かれてウィーンへやって来た主人公は、到着してすぐハリーが既に死んでいることを告げられます。しかもハリーが凶悪な闇商人だと聞かされた主人公はハリーの名誉のため真実を探し始めるのですが、事件はやがて意外な展開を見せ始めることに。
実はグレアム・グリーンの書いた同名小説を先に読んだのですが、そのときはあまり面白いと思わなかった。ところが映画を見て吃驚。話の筋はあまり変わらないのにほとんど別物と言っても良いくらい魅力的な話になっており、これが映画の力か、と思った次第です。
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しかし、この映画の真骨頂はやはり演出にあると言えます。アントン・カラスのチターはキャラクタの心情を即座に想起させ、闇に浮かぶ子供の顔は夜のウィーンの不気味さを、オーソン・ウェルズの不敵な笑いは彼の思想信条を表すという風に、画面に映るものはどれも何かを表現せずにはいられない、ドイツ表現主義的な演出がなされています。
はっきり言って完璧な映画ですね。配役にも、シナリオにも、カメラワークにも、もちろん音楽にも不満はありません。ただ、完璧であるだけにちょっと窮屈に感じたのも確か。そんな完璧さの中で、主人公の小説家が講演会に引っ張り出され、しどろもどろになっている内に聴衆がどんどん帰ってしまうシーンは良い意味でゆとりになっていると感じました。