家族ゲーム

今日のETV特集で『よみがえる松田優作』という番組を放送していたのですが、『探偵物語』、『野獣死すべし』と今見ている作品も含めて名場面がいくつも紹介されていました。この番組ではじめて松田優作の作品を見た、という方には「お気の毒」という感じです。
ちなみに僕は、そんな番組があるとは露知らず、偶然借りてきた『家族ゲーム』と連続で松田優作漬けの3時間を過ごすことになりました。

家族ゲーム [DVD]

家族ゲーム [DVD]

1983年公開の映画。ハードボイルドというか(『野獣死すべし』がハードボイルドだとは全然思わないのですが)、非日常の役柄が多い松田優作にしては珍しく、家庭教師という日常的な役を演じています。脚本にあまり口出ししなかったという点でも珍しいですね。
それでも、さすがは松田優作。狂気を孕んだ演技を見せてくれます。
まずDVDのパッケージにも描かれている、家族が横一列に並んだ食卓の風景。森田芳光監督のアイディアだと思うのですが、単純に見えてこれは凄い発想です。なにせ食卓を「囲まない」のですから。かちゃかちゃと音を立てながら味気ない会話を交わす。ありふれた光景なのに、その全体を見渡すことが出来るという、ただそれだけで「家族の団欒」の不気味さを感じさせてくれます。
この後の松田優作が『野獣死すべし』に代表される「異常者の狂気」から、彼の関わった未公開の脚本などに見られる「日常に潜む狂気」へと表現の中心を移し始めたのも、この作品の影響が大きかったのではないでしょうか。
ただ、物語自体は平凡な家庭を描いたものであり、説明的なセリフも少なく、普通ならば理解する人も少なかったでしょう。それなのに、公開された当時からマスターピースとして広く認められていたのは、主演の松田優作を含め、キャストの「強さ」に拠るところが大きいと思います。有無を言わせず圧倒する力、そんな強さを感じました。
個人的にはラストシーンの破壊力が大好きなのですが(これには唖然)、テレビ放送時は森田監督の判断でカットされたそうです。確かに全体から浮き上がっている感じはするので、わからなくはありません。