田中ロミオ『人類は衰退しました』第2巻

人類は衰退しました 2 (ガガガ文庫)

人類は衰退しました 2 (ガガガ文庫)

そう簡単に最新刊(6巻)にたどり着けると思うなよ!というわけで第2巻を再読。今巻には「スプーンおばさん」と「アルジャーノンに花束を」のパロディ「人間さんの、じゃくにくきょうしょく」、そしてロミオ得意の時間操作ネタ「妖精さんたちの、じかんかつようじゅつ」の2話が収録されています。後者は小学館ならではのネタ(『ドラえもん』ですよね?)
ここまでで主要なモチーフは出そろったように思われるので、列挙してみましょう。
1.平凡さ
『C†C』や『イマ』のように主題化されているわけではなく、また、主人公の内面性が掘り下げられるのは第5巻を待たなくてはなりませんが。今巻収録の「じゃくにくきょうしょく」では「アルジャーン」のように主人公の知性を低下させながらも、モノローグはそれと異なり理知的かつ客観的な文体で綴られており、モノローグの客観性がときどき主人公の心理描写にまで流れ込んできます。主人公の知性に合わせてモノローグの客観性も変化させるような柔軟性をロミオが持たないのか、それともあえて取らないのか。そのことが逆に「自己客観化に優れている」というキャラクタ造形の画一性に反射している、とも考えられるでしょう。
2.衰退
タイトルそのままですが。「緩慢な壊死」というメインモチーフに、「世界の(突発的な)危機」というサブモチーフが接木され、どこか上滑り間のあった『C†C』以来のロミオ作品のなかでは、本シリーズはやや異彩を放っています。とはいえ、「「終わり」について終わりなく語っている」という意味では、従来の延長線上にあると考えるべきでしょう。
3.交易
共同体の外からやってくるキャラバン。そこに積まれている荷物が、物語を起動させます。「じかんかつようじゅつ」から登場する「助手さん」はある遊牧民の出身ですが、その遊牧民は「交易という遊牧国家最大のビタミン剤を失」ってしまったため、「助手さん」を除いて全滅してしまう。『イマ』にもレヴィ=ストロースの話が出てきましたね。外部との関係、というのが重要なポイントなのは間違いありません。妖精さんとの関係も、お菓子と不思議アイテムの交易が軸になっているわけです。
4.他者
ところで「交易」が必要なのは端的に「他者との接触」が必要だからなのですが、何で他者との接触が必要なのかといえば、自分の心を養うため、とされています。でも、それってすごく都合の良い他者ですよね。
「他者」が住む共同体の「外部」と、「交易」によって繋がっている。しかしその「外部」は、海の向こうのフロンティアというより、地続きの隣村といった方が近い。隣村との接触は、その近さゆえに共同体の生活を一変させますが、しかし、それによって閉塞感が解消されるわけではない。『イマ』の「聖域」のような。未知の「外部」の消失と「衰退」の感覚との間には、この点において繋がるのではないか、と。
それでもやはり、どこかで「純粋な外部」を、別の言い方をすれば「神のごとき他者」を諦めることができない。なぜならば、「純粋な外部」が失われたとき「内部」の輪郭もまた失われてしまうから。印象論ですが、田中ロミオの描く世界はどれも「既知の世界」であり、麻枝准の描くような「既知であると同時に未知の世界」とは異質の世界です。麻枝の世界は「外部」と「内部」がゆるやかに繋がっていて、だから「内部」の輪郭も曖昧になっている。でも、田中ロミオはそうしない。神について、世界についてお喋りすることで、内部を俯瞰する特権的な視線を維持しようとする。そのことがむしろ、「他者」について語る彼の想像力を裏切ってしまっている、という気がします。
5.食事
これも重要なポイント。と思いつつ、まだ何も考えていないので保留。複層性、という視点で何か書けないかと考えたり。