『GUNSLINGER GIRL(10)』

大抵の読者にとってもっとも感情移入の容易な、悩み迷い、それでも少女を手放せないでいるヒルシャーと、正当な愛の理由を有するトリエラとの因縁話に一応の決着が付けられる第10巻。次にトリエラが主役になるのは、おそらく彼女が死ぬときなんだろうなぁ、なんて考えると泣けてきます。

「この人と一緒に
必死に生きて
そして死のう」

あまりにも真っ当なラブストーリィで、この物語が少女を薬で洗脳して戦わせる悪趣味な話であることを忘れてしまいそうになります。もっとも、愛とは無意識のうちに選択するものであると決まっていて、「人が人を好きになる理由」について考えることは往々にして悪趣味になるわけですが……。
冒頭、たっぷり2ページ使ってトリエラが蝋燭に火をつける、この繊細な手触りが良いですね。蝋燭は長いのが1本、短いのが1本。長いほうがヒルシャーで、短いのがトリエラでしょうか。第9巻でアンジェリカを失ったマルコーは「たぶん、また別の義体の担当官をやるよ」と言っていましたが、ヒルシャーはそれも出来ないでしょう。
あと、トリエラはまだ気づいていないようですが、今回のエピソードを経て2人の関係はますます第5巻のピノッキオとクリスティアーノに似てきましたね。トリエラも戦って死ぬんだろうなぁ、次のクリスマス辺りで。鬱だSNOW。

GUNSLINGER GIRL 10 (電撃コミックス)

GUNSLINGER GIRL 10 (電撃コミックス)

最後に少しだけ真面目な話をすると、ガンスリの微温的な悪趣味さというのは、男性の願望を投影しながら、「キャラクターコンテンツとして」女性主体の物語を作っていこうという歪みに由来するものであると思われます。つまり、ヒロインの魅力を多角的に描くため、男性視点での外面描写と、女性視点での内面描写を一致させているわけです。唯一すれ違ったのがエルザですが、原作では顔も出てこない。感情移入する前に死んでしまう。とりあえず穴は埋めておこう、と。キャラクターコンテンツとしての枠を外すと、きっと『エルフェンリート』か『沙耶の唄』になるのでしょう(奇しくも似たような話だ)。