山口貴由『シグルイ』

シグルイ 1 (チャンピオンREDコミックス)

シグルイ 1 (チャンピオンREDコミックス)

駿河城御前試合で相対した2人の剣士、隻腕の剣士・藤木源之助と、盲目にして跛足の剣士・伊良子清玄。かつては同門だった彼らが戦いに至るまでの長い回想を描いた作品、それが『シグルイ』です。アニメの感想を書く前に、原作の方に触れておきましょう。
この作品に冠せられたキャッチコピーは「残酷無惨時代劇」。噴出す血飛沫、内臓や脳漿、筋肉組織の詳細な描写など、グロテスクな描写が目立つ作品ではあります。
ただ、作者によると、「残酷無惨時代劇」という言葉はグロテスクな描写を指したものではない、とのことです。頑張った者が報われない、善良な人間があっさりと殺されてしまう不条理さ。それこそが「残酷」なのだ、と。
この作品は巻を進めるごとに善人悪人の境界線が曖昧になってきます。狂気の理由らしきものは見えてくるのですが、それでもやはり、僕たちにとってそれは狂気でしかありません。登場人物それぞれが冷静に自分のことを把握しているつもりだけど、実は自分が既に狂っていることに気づいていない、という感じでしょうか。まさに死狂いの世界。
山口貴由という作家はあまりに独特であるために題材を選びますが、『シグルイ』のようにケレン味の利いた話は氏の誇張された人体表現を十分に活かしています。板垣恵介と『グラップラー刃牙』の関係に近いのかな。