チャールズ・チャップリン『独裁者』

チャップリンにとって『独裁者』は全編に音声がついた初めての作品です。その理由について故・淀川長治氏は「あの躍進中のヒトラーに「言わねばならぬ時」来たからだ」と表現しましたが、至言というべきでしょう。
この映画が作られた当時のアメリカでは、ヒトラーを「大恐慌からドイツを立て直した政治家」として高く評価する傾向が強かったのですが、チャップリンはひとり彼が民主主義の敵であることを見抜き、悲しみを秘めた風刺によって非難します。
特に物語のラスト、独裁者と間違われた床屋(両方チャップリンが演じている)が行う、6分間にわたる長回しの大演説は必見です。映画と共に生き、映画の力を信じたチャップリンの名演説を、長くなりますが全文引用しましょう。

「申し訳ない
私は皇帝にはなりたくない 
支配はしたくない
できれば援助したい
ユダヤ人も黒人も白人も
人類はお互いに助け合うべきである
お互いに憎しみあったりしてはいけない
世界には全人類を養う富がある
人生は自由で楽しいはずであるのに
貪欲が人類を毒し
憎悪をもたらし
悲劇と流血を招いた
スピードも意思を通じさせず
機会は貧富の差を作り
知識を得て人類は懐疑的になった
思想だけがあって感情が無く人間性が失われた
知識より思いやりが必要である
思いやりがないと暴力だけが残る
航空機とラジオは我々を接近させ
人類の良心に呼びかけて
世界をひとつにする力がある
私の声は全世界に伝わり
失意の人々にも届いている
これらの人々は罪なくして苦しんでいる
人々よ失望してはならない
貪欲はやがて姿を消し
恐怖もやがて消え去り
独裁者は死に絶える
大衆は再び権力を取り戻し
自由は決して失われぬ!
兵士諸君 犠牲になるな
独裁者の奴隷になるな!
彼らは諸君を欺き
犠牲を強いて家畜のように追い回している!
彼らは人間ではない!
心も頭も機械に等しい!
諸君は機械ではない!人間だ!
心に愛を抱いている
愛を知らぬものだけが憎しみ合うのだ!
独裁を廃し 自由のために戦え!
“神の王国は人間の中にある”
全ての人間の中に!諸君の中に!
諸君は幸福を生み出す力を持っている
人生は美しく 自由であり
すばらしいものだ!
諸君の力を民主主義のために集結しよう!
よき世界のために戦おう!
青年に希望を与え 老人に保証を与えよう
独裁者も同じ約束をした
だが彼らは約束を守らない!
彼らの野心を満たし 大衆を奴隷にした!
戦おう 約束を果たすために!
世界に自由をもたらし
国境を取り除き
貪欲と憎悪を追放しよう!
良識のために戦おう!
文化の進歩が全人類を幸福に導くように
兵士諸君 民主主義のために団結しよう!
(聴衆の大歓声)