ドリームノッカー―チョコの奇妙な文化祭

ハザマさんが語ったように、虚構には醜い話が溢れている。
確かに、悲劇や悲恋が好まれる。
現実と違うことが面白いといわれるだろう。
でも本当は、悲しいこと、辛いこと、そんなものは現実にこそ溢れ返っている。
だからそれを虚構に閉じ込めようとしているのだ。
そっと。
サテンのリボンできれいに封をするように。
子供から大人になるように。

大好きなシナリオライター、御影氏の小説作品。小説単体での刊行は本書が初めてとのことです。ちなみに、以前これを買いに行ったときに発見したのが「私立!三十三間堂学院」ですが、本書とはもちろん関係ありません。

ドリームノッカー―チョコの奇妙な文化祭 (電撃文庫)

ドリームノッカー―チョコの奇妙な文化祭 (電撃文庫)

演劇部の一年生、チョコは今度の文化祭で上演される芝居「トイボックス」の主役に抜擢されましたが、本番が近づくにつれて奇妙な出来事が頻発。主人公チョコは親友の夢野ほとり(2人ともあだ名)と共にいやいや事件の調査を開始します。
ところが、次第に事件はファンタジーの度合いを強め、最終的には「トイボックス」と物語世界の境界さえも揺さぶられてきます。表紙や挿絵のライトノベルした印象とは少し離れた、実はメタで観念的な作品なので、いくつか書評を見ましたが、肯定論と否定論、大きく評価が分かれています。作者自身も「あわない人には、とことんあわないだろうな〜」と書いていることですし。
ただ、僕自身としては楽しく読ませてもらいました。実に御影氏らしかったな、という感じ。説明が少なくて筋を把握するのに苦労しますが、それさえも含めて「らしい」と思います。
また、登場人物たちの持つ、触れることさえためらわれるような「痛み」の描写が秀逸です。それとは正反対の「暖かさ」もまた、同じように。キャラクターの内面を描くために持ち出されるエピソードのひとつひとつが、本当にささやかなのですが、それゆえに共感できるものとなっています。


作品は違いますが「水夏」の第2章でもこんなエピソードがありました。
主人公は幼い頃に両親を亡くし、妹と2人で暮らしていました。あるとき、妹が遠足に出かけるため、主人公は妹のお弁当に、見栄えを気にせず美味しいものをたくさん詰め込んであげました。
ところが、帰ってきた妹のお弁当箱は、まるまる食べ物が残ったまま。
理由を聞いても「楽しかったよ」としか答えない妹。
おそらくは、他の子のお弁当に妹は「家族」というものを見せ付けられたのだ、と主人公は考えます。空腹と寂しさで泣きながら返ってきた妹。その夜、布団の中で泣きながら眠る主人公。
物語世界の、作品構造の風呂敷はどれだけ広げても、人物の描写はあくまでささやかで内的な部分を描くのが御影氏の優れた点です。ある意味ではわかりづらい作品ですが、ぜひ繰り返し読むことをオススメします。構造が理解できるようになると、ぐっと面白くなりますので。