交差するモノたち―そしてそのカタチ―

群青学院放送部は、既に崩壊しきっていた。夏休みの課題としたラジオ用アンテナの組み立てに参加するのも、部長ただ一人。
たった8人のメンバーなのに、近づいては傷つけあってしまう。ハリモグラのように。だから離れた。そして、放送部はバラバラになった。
それでも、主人公の黒須太一は理想的なエンディングを目指して動いた。そのためのルートは複数用意されている。全員をまとめて和解させるのか、一人ひとり誤解を解くのか、それとも、切り離すのか。無数の試行錯誤を経て、群青学院放送部―CROSS†CHANNEL―が第X回目の放送を開始した。

クロスチャンネル ~To all people~ 通常版

クロスチャンネル ~To all people~ 通常版

FlyingShineのキセキ、CROSS†CHANNELをプレイしました。いつか出会うだろうと思い、ネタバレ記事を回避して生きてきましたが、案の定出会いましたね。良かった良かった。
これから書く記事も出来るだけネタバレを回避しつつ書きますが、あまり期待しないように。世の中には、「このトリックは当時論争になった」と書くだけでネタバレになるような話もあるのですよ。『アクロイド殺し』とか『アクロイド殺人事件』とか。
ままならねーです。


こんな風に断りを入れたのも、物語があからさまに謎をぶら下げているからです。序盤から「放置されたアンテナ」「謎の単語群」「小刻みに入れ替わる場面」と、誰が見ても怪しいシーンの連発。しかし、凄いのは謎の方ではなく、解答の出し方にあります。
まず、謎が(主要なものに限り)明快に解かれるということ。要所で回想シーンが挟み込まれ、「ああ、このシーンはこういう意味だったのか!」と理解を助けてくれます。
それでいて謎は深く、あえて答えを書かずに、話題づくりに使おうとした節も見られます。全部解かれるよりも余韻に浸れて良いですけれど。
謎解きのカタルシスは大きいと言えるでしょう。


しかし、この物語の本質は人間関係の再構築にあります。バラバラになった部活のメンバーの関係を修復すること。それが目的です。
しかし、その困難さは―ややメタな話になってきますが―選択肢式ノベルゲームという、物語のあり方そのものに立脚しているため、より一層困難なものとなっています。
考えたことはありませんか?ノベルゲームの攻略対象は1人。では、攻略される(救われるでも可)ことがなかった対象はどうなるのか。リセット。次へ。別の対象を攻略。最初の対象はリセット。結果を出すことが、一度出した別の結果さえもリセットしてしまう。
常にリセットが繰り返されるノベルゲームの世界では、記憶は継承できても結果が貯蓄できないのです。では、一度で全員を攻略すれば良いのでは?という当然の問いに対し、このゲームでは露骨なカタチで悪意が示されます。

誰が悪かったのか。
運命や巡り合わせのせいには、できない。
誰かが悪い。あるいは、誰もが悪い。
それを認められれば、結論はそう多くない。

そう信じて主人公は行動します。現実の人間がそうであるように。
しかし、たとえ最適解を示しても、誰も悪くなかったとしても不可能。「全員攻略する」という可能性は完全に否定されます。ただ構造上そうなっているというだけで。
ノベルゲームのお約束という名の限界、それを見せ付けたのがCROSS†CHANNELの悪意だと私は考えています。


次にキャラクターについて触れておきます。
非常にエキセントリックなキャラクター(やわらかい表現)が多数登場するこの作品ですが、それでも「こいつは○○なやつだ」という風には言えない、つかみどころのなさを感じました。つまり、多面的に描かれていて、場面によっては意外な行動を取ります。
これは、視点の変化というより、適応の結果というべきでしょう。登場人物たちは関係の変化に適応し、姿を、態度を変えていきます。
関係を変化させることも難しいですが、そこに適応させることはもっと難しいです。主人公は関係を変えるときに、生き延びる術を考えなくてはいけない。なぜなら、人間に固有の人格というのは多分なくて、その時その時の適応の結果に過ぎないから。
例えば、好きな人との関係を進めたいのであれば、好きな人の人格に影響を与えることを覚悟しなくてはいけない。これがCROSS†CHANNEL第2の悪意です。

「いやー、生きるって…」
「難しいね……」

本当ですね。1人で生きることも出来ず、関係に適応することも出来ないCROSS†CHANNELは難しいことこのうえねーです。
けれど。

「少なくともこの部活は、希望がある」
「絶望を確認することしかできないかもよ?」
「絶望を確認するという希望がある」

絶望の底から、理想的な適応のあり方が見つけられるかもしれねーです。見つけられないと、エンディングの後味が悪いことこのうえねーです。
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