いわゆる「鎖国」について
以前、ロナルド・トビ『「鎖国」という外交』を本屋で見かけたときは、上手いこと言うなぁと感心したものでした。
- 作者: ロナルドトビ
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2008/08/26
- メディア: ハードカバー
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グローバリゼーションの中の江戸 (岩波ジュニア新書 〈知の航海〉シリーズ)
- 作者: 田中優子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2012/06/21
- メディア: 新書
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ヨーロッパ人が来るまでは、それが日本にとっての世界であった東アジア世界に、一定の国際的秩序をもって組み込まれていたのである。東アジア世界を媒介としないで、ヨーロッパと日本の出会いを直接にとらえようとすると、鎖国を総体として、しかも具体性をもって把握するうえで、大きな困難が生じるように思われる。
――朝尾前掲――
朝尾はこうした日本型華夷意識をもって近代日本の軍国主義も説明しようとするのですが、田中本はそれをひっくり返して、いやむしろ江戸時代は朝鮮出兵をやらかした秀吉時代とも、西洋文化に塗りつぶされた近代とも違って、他国の文化を尊重しつつ巧みに日本化した時代であったと力説します。まあそういう風にも言えるかもしれませんね。
とはいえ、この時代の日本を外の視点から理解するうえで、アジアだけでなくヨーロッパ、殊にオランダ東インド会社の存在は非常に重要です。この奇妙な組織についての研究で、読みやすく人に薦めやすいものは少なく、羽田正『東インド会社とアジアの海』はその貴重な例外。日本の話も結構出てて、住むところを出島に限定されるわ、幕府に国際情勢を教えるよう求められるわ、はるばる江戸まで挨拶に行くよう強制されるわ、で不自由な境遇にあった東インド会社の人々がなぜかくも従順であったかについての理解が得られます(要するに、日本との貿易がいかに儲かったかという話なんですけど)。
- 作者: 羽田正
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/12/18
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- 作者: 藤田覚
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 2005/12
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「鎖国」の形成において重要な意味をもったのは、ペリー来航以前の18世紀末から何度も日本に現れたロシア船の存在と、それに対する松平定信の対応です。定信がロシア使節のラクスマンに渡した諭書(さとししょ)でようやく、通信・通商はすでに定められた国(朝鮮・琉球・中国・オランダ)の他は認めないのが「いにしへよりの国法」であるという言葉が出てくるわけです。ここで定信が「いにしへよりの国法」と表現したことには、ある明確な狙いがありました。それは
1.厳重な外国船取締りの存在を示すことでロシアをけん制
2.貿易を拒絶する国法を示すことで今後の交渉を有利に運ぶ
3.単にロシアを拒絶するのではなく、「礼と法」に乗っ取った対処をすることを示すため、法を創出
このような狙いをもった、戦略的振る舞いだったわけです。
しかし、こうした定信の狙いはその後急速に忘れ去られ、「祖法」の存在だけが大きくなっていきます。ラクスマンに続いて来航したレザノフに対しても規定の四国以外と通商を結ぶのは「祖宗之法」に禁止されているという回答をしたり(「魯西亜使節処置議」1804年)、「鎖国」維持を目的とした海防掛を設置したり(1845年)、といった経緯によって、鎖国はまさに「祖法」として定着していきました。
こういうのも「創られた伝統」というのですかね。